指先の直接政治


韓国紙セゲイルボ・コラム「説往説来」

 2013年2月、朴槿恵大統領の就任式場。前列に座った李明博前大統領(当時)が手で目頭を押さえた。涙を拭うように見えるこの写真がアップされると1000個のコメントがついた。「子ネズミ(ずる賢い奴)の涙」などの悪口一辺倒だった。その時は“ノサモ(盧武鉉を愛する人々の会)”を超えて、“パクサモ(朴槿恵を愛する人々の会)”の全盛期だった。彼らは敵と友軍を区別した。もっと理念的な時代だった。

 国民の党の李彦周議員(女)議員が昨日こう語った。「送りつけられたメール爆弾が1万通を超えている。民主主義を蹂躙(じゅうりん)するレベルだ」。李議員は先に、「李洛淵首相候補は湖南(半島西南部)の首相でなく(ソウル市の富裕層が住む)江南の首相」だと非難した。それに対する返答が1万通のメール爆弾だった。李首相候補が好きだからではない。ただただ文在寅大統領を守るためだ。“ムンパ”(文大統領の熱烈支持者)たちはマンガ『ワンピース』のキャラクター(冥王シルバーズ・レイリー)をもじって文大統領を「冥王ムンレイリー」と呼んでいる。

 数日前、文大統領が慶尚南道梁山市の私邸を訪ねた時、付近の住民が争って記念写真を撮った。ポータルサイトに写真がアップされると、文大統領と“気さくに”写真を撮った人たちがひどい目に遭った。「疲れている文大統領を休ませないで写真を撮って疲れさせるとは何事か」というコメントが相次いだ。正義党の沈相奵代表も大統領選挙の前、盧武鉉元大統領の墓を参拝して芳名録に「親労(親盧と同じ発音)政府を樹立して人間らしく暮らせる世の中を作ります」と書いて、ひどい非難を受けた。同じ発音でも“親盧武鉉”でなく“親労働者”だと書いたためだ。進歩的なマスコミのハンギョレ・京郷新聞も例外でない。特ダネ報道はマスコミの本分なのに、文大統領を苦しめていると言って、集団的な攻撃を受けた。

 ムンパとは誰なのか。アイドルのファンクラブと同じ狂信的なファンなのか。盲目的で熱烈な点がそんな雰囲気を与えている。ノサモ、パクサモと違う点もある。敵と友軍、進歩と保守を区別しない。別の観点からみると、意味のある時代的な流れとも見える。“指先の直接民主主義”時代を彼らが押し開いているのかもしれない。ある日突然、自分たちの力を確認して、政治改革を要求し、政治家を弾劾しながら立法闘争に立ち上がるかもしれない。誰が統制するのか。政治家から有権者に、権力が移動する世の中に向かっていることだけは明らかだ。
(5月30日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。