失敗したオバマ氏の普遍主義
大統領選敗因探る民主
労働者の声拾ったトランプ氏
今選挙の収穫の一つは、民主党が、アイデンティティーポリティクスのおかげで手にしてきた幸運にようやく疑問を持ち始めたことだ。民主党は、アフリカ系米国人、ヒスパニック、同性愛者、未婚の女性、若者からの支持を頼りに、1992年以降、1回を除いてすべての選挙で得票数では勝利してきた。この「優勢の連合」に乗って、ずっと大統領の地位を手にできると思うようになっていた。
民主党が考えを改め始めたのは、アイデンティティーポリティクスが社会を分断し、国家によって優遇されるグループを作り出し、地域社会内での対立を生んだからではない。機能していないからだ。
民主党は、2008年と12年のような選挙が今後も続くとみていた。そして、今年の選挙を迎えた。バラク・オバマ氏は選挙活動家としての天賦の才を備えており、それが民主党支持者の投票率の高さにつながって、オバマ氏の勝利を呼び、その才能を受け継ぐことは誰にもできないと民主党は考えている。
なぜ民主党は、アイデンティティーポリティクスが党への恒久的な支持を生み出すと思うようになったのか。ヒスパニック票を例に考えてみたい。ミット・ロムニー、ドナルド・トランプ両氏の獲得票は30%以下、2004年のジョージ・W・ブッシュ氏は44%だった。なぜ共和党はヒスパニック票を以前ほど取れなくなったのか。
これらのグループは、社会経済的に発展しており、その政治的指向も容易に変化し得る。これは特に、大成功を収めているアジア系米国人コミュニティーに当てはまる。
その上、アイデンティティーポリティクスを取り入れたことで最終的に、民主党自身がしっぺ返しを受けることになった。トランプ氏は何とか、白人労働者階級の声を拾い上げた。白人労働者階級はこれに応え、政治への自意識を持つようになった。こうして長い間抱いてきた不満を口にするようになった。これまでそのようなことはなかった。どうして俺たちじゃないのかと言うようになった。その他のグループはどれも、かなり少数のトランスジェンダーすら、恩恵を受け、注目され、認められているのに、どうして白人労働者階級だけが取り残され、冷遇され、無視され、見下され、社会的地位も経済状況も悪化しているのかと考えるようになった。
国内外でアイデンティティーポリティクスが受け入れられる中、オバマ氏は逆のことを訴えていた。9月、黒人らに対して、11月の選挙で民主党に入れなければ「私個人に対する侮辱、私のレガシーに対する侮辱と見なす」と言った。しかし、わずか9週間後の最後の外遊ではどこに行っても、偏狭であることの罪を解いた。自国を含む世界の国々に、世界共通の普遍主義の名の下、「部族主義」を回避するよう訴えた。
この世界的普遍主義というドクトリンは2週間前、実際に目に見える形で現れた。フード付きの防寒着に身を包んだケリー国務長官が南極を訪れ、地球温暖化について訴えたのだ。その3日後、部族主義的思考のプーチン・ロシア大統領は、アレッポへの残虐な爆撃を再開、さらに核搭載可能ミサイルをカリーニングラードに配備し、欧州の人々に地域の権力者に盾突くことの危険性を思い出させた。
プーチン氏にとって、南極の氷をケリー氏に任せることは何でもない。その一方で、東欧と地中海の東岸地域に照準を合わせている。米国の同盟国はというと、オバマ氏が、国連での初演説で訴えたようなことを今なお信奉していることに驚いている。オバマ氏は、パワーポリティックス、国家の支配はすでに時代遅れだと訴え、自身が信奉する共通の世界観を持つ新世界がすでに到来したかのように振る舞っている。
7カ月前、オバマ氏は英国に行き、欧州にとどまるよう求めた。これは見事に失敗した。再び欧州に戻り、「本来のナショナリズム、民族意識、部族主義」に戻ろうという誘惑に負けてはいけないと、折あるごとに訴えた。
これは、欧州とトランプ支持者らの民族ナショナリズムに対する反論を意図したものだが、皮肉なことに、民主党の国内でのアイデンティティーポリティクス戦略を実によく表している。
確かに、民族グループごとに訴える必要性は、今後も米国政治でなくなることはない。ヒラリー・クリントン氏の選挙戦が、逆の観点からこれを立証した。つまり、分断したすべてのグループに呼び掛けたが、その声は届かなかった。バーニー・サンダース氏ですら、民主党が今後、労働者階級を引き付けたければ、アイデンティティーポリティクスを乗り越える」必要があると訴えた。
外交に関して、米国には超越的な使命のようなものがこれまであったし、あるべきだ。しかし、普遍的価値観を国益より優先するという自己犠牲的なオバマ・ドクトリンは失敗した。すでに終わっている。ウクライナ、アレッポ、南シナ海、その結果は散々だ。
民主党にとっては、国内の部族主義、国外での普遍主義から挽回するチャンスだ。
(11月25日)