都会を走るリス


地球だより

 リスというのは動物園か深い森にまで足を延ばさないと遭遇できないものと思っていた。

 ところがバンコクでは、都心でも自由気ままにリスが走り回っている。

 日本のシマリスに似ているが、実は似て非なるものでフィンレイソンリスという種類のリスだ。

 冬越えができるニホンリスやエゾリスと違って、熱帯・亜熱帯の東南アジアに適応している。何より興味深いのは、このリスには頬袋がない。年中、食べ物に困らない東南アジアでは、秋のうちにせっせとドングリをため込む必要がないからだ。またアリクイのような長い舌をしている。これで蜜やココナツに穴を開けて汁を吸うために使う。頬は退化し舌が進化した模様だ。

 なお、バンコクでリスを一番見かけるのが電線の上だ。バンコクには昔、さまざまな木が植えられた広大な庭を持つ裕福な邸宅が多く、元来、リスは庭の木から木に枝伝いに移動してえさをとって暮らしていた。

 しかし、近代化の波に洗われて、商業用ビルやマンションなどの建設ラッシュが続き、大きな庭を持つような家は次々に取り壊されていった。それに伴い、リスが巣を作ったり移動手段であった樹木は切り倒されていき、寝床だけでなく移動する道もなくなった。そこでリスが目をつけたのが空中に張り巡らされている電線だったというわけだ。

 バンコクには電線だけでなく、光ファイバーやケーブルテレビ、電話線など多くの回線が町の隅々にまではりめぐらされている。その近代の回廊を木の枝代わりに使って、たくましく生き延びている。

 時折、群れをなして電線を這(は)うリスを見ると、大都市を攻略しているかのようでもある。

(T)