現実を見ないオバマ大統領
攻勢強める中露・イラン
人権で進展ないキューバ
【ワシントン】オバマ大統領8年目の世界の現状。
①中国は、自国の国境から遠く離れた南シナ海の係争地に対空砲を設置し、戦闘機を配備したばかりだ。これに先立ち中国は、別の係争地である南沙(スプラトリー)諸島に作った人工島に航空機を着陸させていた。ここは、フィリピン、マレーシア、台湾、ベトナムが領有を主張している。これらの施設は現在、中国が、70年間に及ぶ環太平洋地域の米国支配に対抗するための前進基地として機能している。
米太平洋軍司令官は23日、「中国が南シナ海を軍事化しているのは確かだ。(目指しているのは)東アジアでの覇権だ」と語った。
②シリア。ロシアの介入で内戦の流れが変わった。アサド政権を崩壊から救ったロシアは、大規模な爆撃を行い、シリア最大の都市アレッポの反政府組織の拠点を破壊した。この爆撃で、大量の難民が新たに発生し、大国が本気になればどれだけのことができるかを全中東に示した。
米国はどう対応しただろうか。ケリー国務長官は、ロシアと、その同盟国イランを懐柔しようと何度も試みているが、平和会議は失敗続きだ。21日には「敵対勢力の分離」に関する新たな「暫定的基本原則」を発表したものの、中央情報局(CIA)長官、国防長官、統合参謀本部議長らは悲観的だ。
③ウクライナ。クリミアが完全にのみ込まれてしまったことは誰も言わなくなった。ロシアは、ミンスク停戦合意に違反し続けている。プーチン大統領は今再び、混乱を招き、戦闘を激化させ、ウクライナを分断し、従属させようと残忍な軍事作戦を進めている。一方で、オバマ氏はウクライナに自衛的な兵器を供与することすら拒否している。
④イラン。18日、地対空ミサイル「S300」の第1陣がロシアからイランに到着した。これで、核施設への攻撃に対する防衛能力は格段に向上する。ロシアとは、最新鋭の戦闘機など80億㌦の武器取引の交渉が進められている。弾道ミサイルの試射を含めてこれらの通常兵器の大量導入は、国連安保理決議への明確な違反だ。これらは、1000億㌦をイランに与え、国際社会からの関係を正常化させる核合意の結果だが、このようになることは予測できたし、予測されていた。
これに対する米国の反応は言葉だけだ。
重力波と違い、現在の軍事情勢を理解するのは難しくない。持たざる主要3カ国が冷戦後の秩序をひっくり返そうとしているだけだ。東欧でロシア、東アジアで中国、中東でイラン、すべて進軍中だ。
このような中でオバマ氏はキューバに行こうとしている。
ロシアとも、中国とも、イランとも戦略的に全く無関係だが、反・反共産主義のオバマ氏にとっては大切なことのようだ。
オバマ氏が昨年、キューバ訪問の条件として挙げた人権と民主主義の進展をとりあえず、祝っておこうということか。だが、現状は違う。オバマ氏がかつて、レッドラインを守ったことがあっただろうか。実際には、オバマ氏がキューバとの「歴史的」正常化に取り掛かって以来、抑圧は強まった。キューバ政府は先月、1414人の政治犯を逮捕した。これまでで2番目の多さだ。
だが、そんなことは大したことではない。世界が混乱し、米国が没落していく中で、オバマ氏は自分だけの関心事に夢中だ。キューバとグアンタナモだ。これについては、たまにしか行わないテレビ演説を行ったばかりだ。もちろん、気候変動もオバマ氏のおはこだ。
オバマ氏は、聖戦主義者らによる虐殺が起きたパリには行こうとしなかった。代わりにケリー国務長官を送った。長官は自身が明らかにしたように、「君の友達」を歌うジェームズ・テイラーと一緒に「パリをぎゅっと抱き締めた」。だが、気候変動会議の時はパリに3日間もこれ見よがしにとどまっていた。
だからハバナにも行く。確かに、野蛮人らはすぐ近くに迫り、攻勢を強めている。あと11カ月間は何をしても米国から強い抵抗は来ないことも知っている。だが、オバマ氏はそんなことには興味はない。大したことはないと本気で思っているからだ。世界を混乱させるこの野蛮人らは、悪の側にいて、その領土も力も勝利も20世紀の過去のものだと思っているからだ。
だが、シリアで殺された20万人以上の人々、難民となった何百万人もの人々にとっては重要なことだ。欧州が分断され、中国が拡大し、イランが台頭し、聖戦主義は拡大している。これらはすべて肌で感じられる現実だ。
だが、夢想家のオバマ氏にはそれが分からない。このような一時的な現実にはとらわれない。真に重要なのは、気候変動、グアンタナモ、キューバだからだ。
オバマ氏は残り少ない時間で、これらを自身のレガシーにしようとしている。実際にそうなることだろう。
(2月26日)