露の狙いはアサド政権維持

Charles Krauthammer米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

出し抜かれたオバマ氏

プーチン氏がシリア介入

 「ロシアがアサドの敵を攻撃、米は反発」ウォール・ストリート・ジャーナル紙10月1日

 【ワシントン】オバマ政権にもう少し知恵があれば、強く抗議するようなことはしなかっただろう。だが、恥をかいたのは確かだ。オバマ大統領はまた、プーチン大統領に見事に出し抜かれた。その2日前、オバマ氏は国連で、ロシア軍が大挙して中東に返ってくることに歓迎を表明した。ロシアの介入は「イスラム国」との戦いに加わるためだが、こんなことは何十年かぶりだ。

 最初から分かっていたことだ。ロシアがシリアに来たのは、「イスラム国」と戦うためではない。戦闘機、空対空ミサイル、SA22対空防御システムを持ち込んだが、空軍力も航空機もヘリコプターも持っていない「イスラム国」との戦いにそんなものは不要だ。

 さらにロシアは、西部のイドリブとハマに無人偵察機を送った。「イスラム国」がいない地域だ。その後、ホムスなど「イスラム国」とは無関係の反政府勢力の拠点を爆撃した。

 爆撃を受けた戦闘員の中には米国の訓練を受け、装備の提供を受けていた者もいた。カーター国防長官は、現地にいる協力者らを助ける義務はないのかという質問に対し、ロシアのやっていることはつじつまが合っていないと自信なさそうに言った。

 カーター氏は、ロシアの攻撃は自己矛盾であり、挑発ではなかったとでも言いたいようだ。攻撃は、穏健派反政府勢力を支援する米国の方針に真っ向から対立するものだ。

 ロシアの介入はすべて、アサド政権を存続させるためだ。プーチン氏は、「イスラム国」との戦いに興味はない。それは、ロシアの空爆の第2波が「イスラム国」と対抗する武装勢力であったことから分かる。「イスラム国」は、介入の口実にすぎない。オバマ氏は引っ掛けられたということだ。

 オバマ氏はほんの3週間前、ロシアのシリアへの軍の投入を非難し、立てた指を振りながら「必ず失敗する」と言った。しかし、9月28日までに「イスラム国」との戦いにロシアが参加することを歓迎した。ロシア軍の増強を受け入れたばかりか、この問題でプーチン氏と派手な会談を演出した。これで、クリミア問題をめぐってプーチン氏を外交的に孤立させるために意欲的に進めてきた政策はものの見事に崩壊した。

 プーチン氏はオバマ氏を露骨に見下し、会談後48時間以内に、かつて反アサドで米国と協力した勢力に空爆を行った。それを米国が知ったのは、ロシアの一人の将官がバグダッドの米大使館を訪れて、1時間以内に攻撃が始まると事務的に伝え、近づかないよう米国に警告してからだ。

 カーター氏はその後の記者会見で、ロシアの行動は「プロとしての倫理に反する」と指摘した。

 何ということだ。軍事力は劣り、外貨の流出が止まらないロシアに、カーター氏はたじたじだ。ロシアは主導権を握り、米国がいかに無力であるかを暴露した。米国防長官はというと、ロシアのマナー違反を嘆いている。

 泣きたい気分だ。

 オバマ氏が大統領になった時、イラクでの増派が成功し、米国はこの地域で支配的な地位を獲得し、支配力は地域全体に及んだ。イラクは27日、イラン、シリア、ロシアと情報収集センターを設置することを発表した。台頭する地域の新しい覇権国ロシアの傘のもと、イランから中東北部、地中海に至る「シーア派の三日月地帯」連合の出現だ。

 米国が指をくわえて見ている中、ロシア機がシリア上空を爆音を立てて自由に飛び回り、反政府勢力を攻撃している。一方で米国の国務長官はロシアに「衝突回避」への対話を求めた。互いに危険を及ぼすことなく、それぞれの標的を爆撃できるようにするためだ。事態はここまで来てしまった。

 プーチン氏はなぜこれほどまで素早く、大胆な行動を取るのか。あと16カ月しか扉が開かれていないからだ。その扉とはオバマ氏だ。オバマ氏は国連総会で「どの国も、他国を支配できないし、支配すべきでない」と語り、28日にはさらに「世界の国々は、紛争や抑圧という過去のやり方に戻ることはできないと心から信じている」と語った。プーチン氏は、このような米国大統領には二度と出会えないことをよく知っている。

 本意なのだろうか。オバマ氏は、ホムスやクンドゥズ、サヌア、ドネツクなど紛争と抑圧で燃え上がっている世界の現状を見てはいないのだろうか。

 あなたがプーチン氏で、学者っぽいファンタジーの世界に生きている人物が相手なら、この最後の16カ月を利用しないだろうか。プーチン氏がシリア爆撃を始めた時、オバマ氏はどこにいただろうか。武装急進勢力対策に関する国連の会合を主宰していた。

 今後も同じことが続く。

(10月2日)