ローマ法王の危険な10日間の「旅」


 ローマ法王フランシスコの米国とキューバ訪問が差し迫ってきた。南米出身の法王にとって、今回の両国訪問は法王就任後10回目の外国訪問だが、「危険な旅だ」という警告の声が米情報機関筋から流れている。

 バチカン法王庁のロンバルディ報道官が15日、記者会見で明らかにしたところによると、フランシスコ法王は19日から22日までキューバ訪問で、聖母マリア巡礼地、エル・コブㇾ(ELCobre)を訪ねるほか、日程はまだ未定だが、フェデル・カストロ氏と会見する予定だ。

 キューバでは共産党と教会の関係は改善の方向にある。共産党宗教問題担当のCaridad Diego女史は13日、「関係は良好だ。今後は更に発展させたい。フランシスコ法王の訪問はわが国にとって大きな意義のあるものだ」と受け止めている。

フランシスコ法王のキューバ滞在期間、同国外務省はローマ法王訪問に関するインターネットサイトを開き、国民に自由な接続を認めている。同国ではインターネットの接続は政府が管理し、これまで厳しく監視されてきた。政府の決定を「インターネット革命だ」とソーシャル・ネット・ワークでは囁かれているほどだ。

 フランシスコ法王は4日間のキューバ訪問後、22日から28日まで米国を訪問し、ワシントンではオバマ大統領と会談するほか、米議会で演説する。両首脳の主要テーマは環境保護問題といわれる。フランシスコ法王は6月18日、環境保護問題で初の回勅「ラウダート・シ」を発表し、地球温暖化問題などに警告を発した。一方、任期が残り少なくなったオバマ大統領も環境問題に取り組む姿勢を強調したばかりだ。なお、法王は26日から27日の2日間はフィラデルフィアで開催される「世界家庭大会」に出席する。

 フランシスコ法王はニューヨークで開催中の国連総会に出席し、170カ国の国家首脳の前で基調演説し、環境保護、難民・移民問題、シリア紛争、中東の少数派キリスト信者の迫害問題などに言及し、国際社会の関心を呼び起こす考えだ。

 ローマ法王の米、キューバ訪問は十日間に及び、法王の外遊としては最長期間だが、ここにきて「危険な10日間の旅」と受け取られ始めている。ホスト国の米国はローマ法王の安全警備を強化。ニューヨークのビル・デブラシオ市長は、「これまで経験したことがない最大規模の警備体制を敷いている」と述べている。その背景には、フランシスコ法王暗殺計画が発覚、治安、情報機関が厳重警備を呼びかけていることがある。法王暗殺計画の詳細な内容は明らかにされていないが、「暗殺計画はシリアスだ」という。

 フランシスコ法王に対する暗殺情報はこれが初めてではない。これまで数回、メディアに流れたことがある。法王が昨年9月、アルバニア訪問の際、イスラム過激派勢力による暗殺計画があった、という情報が流れた。イスラム教スンニ派過激テロ組織「イスラム国」は過去、ローマ法王を暗殺すると発表している。

 ローマ法王を狙う組織はイスラム過激派テロ組織だけではない。世界最大のキリスト教カトリック教会の刷新を標榜するフランシスコ法王は、保守派信者たちから好ましく思われていない。イタリアでは法王がマフィア撲滅を呼びかけていることもあって、マフィア・グループからも脅迫が絶えないなど、多くの敵を抱えている(「フランシスコ法王には『敵』が多い」2014年3月18日参考)。

 オーストリアの著名な神学者、パウル・ツ―レーナー教授が2013年、「カトリック教会内の根本主義者らによるフランシスコ法王の暗殺計画が囁かれている」と警告し、関係者を驚かせたことがある。カトリック教会では過去、故ヨハネ・パウロ2世(在位1978年10月~2005年4月)が1981年5月13日、サンピエトロ広場でアリ・アジャの銃撃を受け、負傷したことがある。

 バチカン法王庁は10月4日から通常の世界司教会議(シノドス)を開催するが、昨年10月、特別シノドスを開き、「福音宣教からみた家庭司牧の挑戦」について協議した。通常シノドスではその継続協議が行われ、家庭問題に対する教会の立場を明確にする。教会の未来を左右する重要なシノドスを間近に控え、バチカン関係者はフランシスコ法王の無事を祈っているという。

(ウィーン在住)