「売春合法化」は間違いだ


 ロンドンに本部を置く国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」(AI)は11日、ダブリンで開かれた総会で売買春の合法化を支持することを決定した。その理由は「性労働者の人権保護につながる」からだという。

 当方は、売買春の合法化に反対する。合法化支持者は、①売買春は法では撲滅できない、②合法化で性労働に従事する女性たちの性病の危険を管理できる、③不法に性産業を操る犯罪組織を追放できる、等の理由を掲げる。米国で昔、アルコール売買が禁止されたことがあったが、不法にアルコールを売買する組織犯罪が活発化し、犯罪は増加したことがあった。同じことが売春防止法にもいえるというのだ。

 それらの理由は根拠がまったくないとはいわないが、当方の考えは違う。先ず、売春は法で禁止し防ぐことは出来ない、という認識は合法化支持者と意見を一致するが、「防止法を破棄し合法化したほうが犯罪や性病は減少する」とは考えない。防止法が完全には施行できなく、一種のザル法といわれたとしても、同法を施行することに意味があると考えている。

 少し説明する。売春は有史以来存在した「最古の職業」といわれる。売春はどの時代にも途絶えたことがなかった。しかし、街に売春が溢れ、禁止できないと分かっていても、人類の歴史は次第に売春禁止の方向に流れてきた。売春防止法はその意味で人類の歴史的遺産だった。それを今、「性労働者の人権擁護」、「性病管理と不法犯罪の防止」などの理由から破棄しようとしているのだ。

 「完全に履行できない」という理由から防止法を廃止することは賢明ではない。防止法を施行することで、国、社会は淫乱の拡大を抑制し、社会の秩序を維持してきた。合法化で犯罪や性病が少なくなるというが、防止法の施行でこれまでどれだけの性病が減少し、犯罪が少なくなったか、合法化支持者は知っているのだろうか。防止法を破棄し、合法化していけば、その次は麻薬の合法化が待っているだろう。オランダはその道を先行している代表的な国だ。

(当方がここで問題としている売春合法化問題は欧米先進諸国を対象にして考えている。開発途上国、アフリカ諸国の売春問題については別の観点からの分析が必要となるからだ)

 世界の宗教の教えを振り返れば、キリスト教、仏教、イスラム教はいずれも淪落を最大の罪と見なし、戒めている。なぜならば、淪落は個人、家庭、国家をも崩壊に導くからだ。

 興味深い点は、「女性の権利尊重」が叫ばれるずっと前から、淪落は最悪の罪として受け取られてきたという事実だ。売春の最大の犠牲者、女性の権利向上のために売春防止が叫ばれてきたのではなく、淫乱の抑制が人類の最大の課題だという認識がその前にあったのだ。例えば、紀元前13世紀ごろ、「姦淫は最大の罪」とモーセ五書に記されている。
 
 売春を合法化し、社会全般が道徳や倫理に対して不感症となっていけば、社会の秩序は崩れていくだろう。なぜならば、窃盗、詐欺、腐敗といった犯罪よりも、淫乱は社会を根底から腐らせていくからだ。あの賢明なソロモン王が倒れたのは敵軍の攻撃のためではなく、女性問題からだ。

 売春防止法は堤防のような役割を果たしてきた。その堤防に少しでもヒビが入れば、洪水を引き起こす。同じことが売春防止法の廃止にも当てはまるだろう。

 繰り返すが、われわれは売春を完全には防止できない。それ故に、防止法が必要となるのだ。逆ではない。売春合法化は、不法な売春業を減少させるかもしれないが、淫乱は確実に増えるだろう。とすれば、防止法を維持することは社会の秩序維持、危機管理という意味から考えても賢明なことではないか。

 参考までに言及する。日韓両国の間には慰安婦問題が大きな課題として残されている。忘れてならない点は、売春合法化は慰安婦を増加させる契機となることだ。

 慰安婦問題は、旧日本軍が直接関与し、強制したかどうかなど争点ではない。また、戦時の問題だけではなく、平時でも生じている問題だ。慰安婦問題を解決しようとすれば、歴史書を紐解き、喧々諤々と議論する必要などない。われわれ一人ひとりの倫理観が問われている問題だからだ。

(ウィーン在住)