法王フランシスコの“予感”と使命


 世界に約12億人の信者を有する世界最大キリスト教、ローマ・カトリック教会の最高指導者ローマ法王フランシスコはメキシコのテレビ放送とのインタビューに応じ、その中で、「自身の法王の在位期間は4年から5年、ひょっとしたら3年から2年と短くなるように感じる」と語ったという。そのニュースが流れると、78歳のフランシスコの健康が悪化したのではないかといった噂すら囁かれている。

 ペテロの後継者、ローマ法王のポストは本来終身制だが、前法王べネディクト16世が2年前、健康を理由に退位した。それに対し、後継法王のフランシスコは過去、何度も、「べネディクト16世の退位表明を高く評価する。自分も健康問題でその職務が履行できなくなったならば、躊躇することなく即退位する」と述べてきた。だから、フランシスコの在位期間に関する発言は冗談ではなく、法王の真意と受け取っていいだろう。

 今月13日で法王就任2年が過ぎたばかりのローマ法王が、「自分の在位期間は短くなるだろう」と吐露したことは何を意味するのだろうか。“空を飛ぶ法王”と呼ばれ、在位期間27年間をバチカン法王庁のトップに君臨したヨハネ・パウロ2世とは異なり、南米出身のフランシスコは本来、外遊を好まないという。自宅にいて身近な知り合いと生きていくことを最大の喜びとする。法王として外遊する機会が増えてきたことに次第に負担を感じだしてきたのかもしれない。

 ところで、歴代のローマ法王を予言してきた聖マラキによれば、ローマ・カトリック教会最後の法王はドイツ人べネディクト16世だ。その後の法王について、聖マラキは何も語っていないのだ。

 11世紀の預言者、聖マラキは、「全ての法王に関する大司教聖マラキの預言」の中で1143年に即位したローマ法王ケレスティヌス2世以降の112人(扱いによっては111人)のローマ法王を預言している。そして最後の111番目がベネディクト16世だった。

 聖マラキは、第2バチカン公会議を提唱したヨハネ23世(在位1958年10月~63年6月)の即位について、「牧者にして船乗り」と預言した。ヨハネ23世は水の都ヴェネツィアの大司教だった。冷戦時代に活躍したポーランド出身のヨハネ・パウロ2世については、「太陽の働きによって」と預言した。同2世が生まれた時に日食が観測されたことから、預言は当たっていると受け取られた。ベネディクト16世の即位は、「オリーブの栄光」と預言された。べネディクト16世の名称はベネディクト会創設者の聖べネディクから由来するが、同会はオリーブの枝をシンボルとすることで有名だ、といった具合だ。

 べネディクト16世時代にカトリック教会聖職者による未成年者の性的虐待事件が発覚し、教会の信頼は大きく揺れ動いた。その性的虐待事件の総件数は5桁にもなる。聖マラキはべネディクト16世を最後のローマ法王としたのは偶然ではないだろう。同16世時代に教会のスキャンダルが暴露され、2000年余りの教会の歴史が幕を閉じると予言していたのかもしれない。

 それでは聖マラキが予言していない南米出身のローマ法王フランシスコの使命は何か。フランシスコはひょっとしたらペテロの後継者ではなく、教会の終焉を告げる預言者として登場してきたのではないか。

 アルゼンチン出身のフランシスコは2年前の法王選出会(コンクラーベ)で教会の改革、バチカン機構の刷新を訴えた。就任後も歴代の法王とは異なり、大胆に教会刷新を訴え続けている。同法王は、沈もうとする教会の船を救おうと腐心しているのか、それとも21世紀の新しい世界的宗教の出現を準備する洗礼ヨハネ的な使命を帯びているのだろうか。法王3年目に入ったフランシスコ法王の言動を注視していきたい。

(ウィーン在住)