聖戦思想に感化されたテロ

チャールズ・クラウトハマー米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

「イスラム国」が影響拡大

恐るべき「国産」テロリスト

 【ワシントン】一匹オオカミ・テロリストは新しい国家的悪夢だ。オーストラリア・シドニーで今週起きた人質事件で大立ち回りを演じ、注目を浴びた。しかし、一匹オオカミには2種類ある。狂気と悪だ。この違いは大きい。

 真のテロリストは合理的だ。フォートフッドで銃撃事件を起こしたニダル・ハサン少佐は長年、陸軍医として働いていた。精神障害者にこんなことはできない。ハサンは「アラーの兵士」の一員として名刺も持っていた。ハサンは外に出ると、「神は偉大なり」と叫びながら、仲間の兵士ら13人を射殺した。これまで一貫して、自信満々に、この虐殺について語っている。これが真のテロだ。

 一方のシドニーのマン・ハロン・モニスは、隅に追いやられ、疎外されたイラン移民であり、精神病理学の格好の材料だ。モニスは元担当弁護士に「不安定」と表現され、被害妄想が強まっていた。元妻の殺害の共犯として起訴され、死亡したオーストラリア兵の家族に脅迫する手紙を送ったことで有罪となっている。

 ハサンの信仰は、狂信的であり、支離滅裂だった。最近、シーア派からスンニ派に改宗したばかりで、インターネットの投稿からは、改宗への強いこだわりとともに、イスラム教やイスラム主義についてあまり知らないことが分かる。攻撃時には間違ったイスラム教の旗を持っていき、「イスラム国」の旗を持ってこいと警察に要求する始末だ。

 「イスラム国」とつながりがあるのか、どのような策略を持っているのか、必死の捜査が行われたが、「イスラム国」が、モニスのような情緒不安定な人物にいちいち指示を出すことはない。シナリオを提示し、モニスがそれを実行しただけだ。混乱し、錯乱したモニスは、「イスラム国」に方向性、目的を見いだし、そこに英雄になれる可能性すら感じていた。

 オクラホマ州で職場の同僚の首を切断した事件、ニューヨーク市の警官がクイーンズで斧(おの)で襲われた事件など、一匹オオカミによる最近の一連のテロ事件の大部分は、これに当たるのではないかと考えている。私がこれらの襲撃事件の犯人を恐れるのは、この精神病理学の研究材料になるような事件が至る所で、あらゆる社会の隙間で起きているからだ。普通は精神病院の中やその周辺で起きたり、ホームレスが関わっていたりするものだが、その一部がテロにつながり、現在のような結果となっている。

 だが、常識的に考えれば、このような狂人ができることは限られている。計画性がないため、限定的で、小規模な被害しか出せない。ハサンのように、精神的に問題なく、しっかりとした目的を持っている場合は、危険性が増す。

 さらに危険なのは、計画的なテロだ。シドニーでの事件後すぐに、ペシャワルでタリバンが学校を襲撃する事件が起き、少なくとも148人が死亡した。そのほとんどが子供だ。

 これは最も純粋な形での悪だ。数多くの子供が爆発物や銃の乱射ではなく、頭に一発の銃弾を受けて殺害される場面を想像してみてほしい。罪のない子供が至近距離で射殺された。残虐性という点ではイスラム国の大量殺戮(さつりく)、自慢げに人質の首を切る動画に匹敵する。

 完全な悪の姿が明らかになり始めている。話し合いや譲歩の余地はない。ペシャワルでの虐殺を受けてパキスタン首相は、死刑の凍結を解除した。

 オバマ大統領は、「イスラム国」による同じような残虐行為に対し、軍事行動を取ることを決めた。成功すれば、その影響はこの地域だけにとどまらない。米国外で勢力を増しているテロリストらを止めることが、米国内の一匹オオカミを退治する鍵だ。

 これらの組織が人々をそそのかし、影響を及ぼすことができるかどうかは、その名声に懸かっている。この名声は、ほかのほとんどの救世主運動と同様、どけだけの力を持ち、どれだけの領土を征服し、説得力のあるピーアールをするかで測られる。

 最近は、アルカイダを思わせるようなテロリストはあまり見ない。代わりに、「イスラム国」の旗が掲げられている。めきめきと力を付けている勝ち馬だからだ。

 一匹オオカミに対する第一の防衛ラインは、言うまでもなく防御策だ。居所を突き止め、追跡し、先制攻撃を仕掛ける。しかし現状のように、混乱し、精神的に不安定で、影響を受ける可能性が高い人々が多くいても、市民的自由の保護のために対応を抑制せざるを得ない。このような防御的姿勢が不十分であることは現状を見れば分かる。

 「イスラム国」は、テロを持ち込むには、必ずしも細胞組織を現地に送り、国外の不信心者らを殺害させる必要がないことを発見した。現状のように、電線を通じて遠方にいる人々を動かすことができる。一匹オオカミに対する防衛策の最終ラインは、聖戦というシナリオの作者でもある戦士らの動きを止めることにあるというのはそのためだ。

 恐れるべきは「国産テロリスト」だ。しかし、この国産テロリストは、私たちが思うほど「国産」ではない。栄養源は国外にある。9・11以降のテロとの戦いの中で、こここそが、戦うべきところだ。

(12月19日付)