フランスの農家から信仰も消える?


地球だより

 フランス西部マイエンヌで代々農業を営んできたレナゼ家が存亡の危機にさらされている。今、農場を仕切っているアンドレさんは73歳、本人はあと5年で引退と決めている。ところが息子は80㌔離れた町のレンヌでエンジニアになっている。

 アンドレさんは最初、農業の嫌いな息子に跡を継がせるのを諦め、自分の弟の息子のピエールさんに農業を継がせようとした。ところがピエールさんは航空機のパイロットを希望し、今はスイス航空でパイロットになっている。アンドレさんが見渡した限り、他に跡継ぎはなく、このままだと農場を手放すしかない状況だ。

 アンドレさんもそうだが、彼の両親も熱心なカトリック教徒だった。30年前まで近くの町に教会がなかったため、アンドレさんは両親と共に7㌔離れた教会の日曜日の礼拝に通った。雪が降れば車は通れず、歩いて礼拝に行ったが、自慢は一度も礼拝を欠かしたことがないことだった。
 フランスの農家には熱心な信者が少なくない。神父のために野菜を作り、教会で奉仕活動を行う。礼拝では町の有力者や金持ちたちが前に座り、農民たちは後ろの方に精いっぱいの正装、といっても粗末なジャケットを着て座るのが常だ。

 アンドレさんの両親は太陽が昇れば畑に出て、夕日と共に祈りをささげて家路に就いた。ミレーの名画「晩鐘」さながらの生活だった。アンドレさんの時代は機械化が進み、農地も拡大し、大規模農業が主流になった。近所の農家の助けがなくても機械で解決できることも増えた。最近は有機栽培にも取り組んでいた。

 アンドレさんも両親同様、熱心に教会に通い、大地を耕し神への信仰とともに人生を過ごしてきた。エンジニアの息子は高校生の頃から次第に教会から足が遠のき、それでも結婚する時は教会で式を挙げたが、以来教会には通っていない。

 こんな農家はフランスでは増える一方だ。農家の跡継ぎ問題も深刻だが、その農家に支えられてきた教会が存亡の危機にある。一人の神父が三つや四つの教会を掛け持ちする例などは当たり前になっている。

(M)