NATO期待もトルコ拒否、イスラム国掃討への地上軍投入
在欧クルド人、援軍求めデモ
北大西洋条約機構(NATO)の欧米加盟国は、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」掃討のためトルコ軍によるシリアへの軍事介入を期待しているが、トルコ側を説得できないでいる。在英クルド人は、トルコ政府や十分な対応策を取らない英政府に対して抗議デモをロンドン市内で行った。(ロンドン・行天慎二)
NATOのストルテンベルグ新事務総長は9日、トルコの首都アンカラを訪問し、トルコ国境まで迫ったイスラム国への対応を協議した。トルコのチャブシオール外相との会談後、同事務総長は「イスラム国はイラク国民、シリア国民、その広範な地域のみならずNATO諸国へも深刻な脅威になっている。国際社会全体が一体化して長期的な努力をすることが重要だ。米国が多くの同盟国や有志国と取った断固たる行動を歓迎する。最近トルコ国会が投票でトルコがこの危機に一層行動的役割を果たすことを承認したことを歓迎する」と語り、トルコと協力してイスラム国掃討作戦を行いたいとの秋波を送った。
会談ではトルコのシリア北部への軍事介入問題が話されたもようだが、記者会見でストルテンベルグ新事務総長はトルコが地上軍をシリア国内に派遣することには言及せず、NATOとして議題にする問題でないとの見解を示した。他方、トルコ側もチャブシオール外相が「トルコが独自に地上作戦を遂行すると考えるのは現実的ではない」と述べて、トルコとの国境に近いシリア北部の町コバニでイスラム国と戦闘しているクルド人部隊に援軍を出すことを拒否した。9日、イスラム国はコバニで攻勢を強め、同地の3分の1以上を掌握したと伝えられている。
トルコ政府が地上軍派遣に二の足を踏むのは、シリア北部に軍事介入すればイスラム国と戦っているクルド人民兵組織を助けることになり、トルコ国内で非合法化されているクルド労働者党(PKK)の独立運動を刺激することになるためだ。また、イスラム国を駆逐したいシリアのアサド政権を間接的に支援することにもなるためだ。しかし、欧米諸国は既に実施している空爆だけではイスラム国掃討作戦は遂行不可能だと判断しており、シリア内の穏健スンニ派反政府勢力やクルド人独立国家を目指すクルド人部隊を支援することが必要だと考えている。
ファロン英国防相は9日、BBCとのインタビューの中で「これは米国と英国だけでなく(中東)地域自身によって解決され得る状況であり、トルコに一層関与してもらいたい。ただ、最終的にはトルコ政府の決定事項だ」と語り、トルコ軍がイスラム国掃討に加勢するように促した。イスラム国との対テロ戦争に踏み切った米国主導の有志国連合は、自国から地上軍を派遣する意思はないため、トルコへの圧力を強めたいところだ。トルコはNATO加盟国であり、NATOはトルコ内にパトリオット地対空ミサイルを配備しているが、トルコがシリア内に地上軍を派遣すればNATOは集団防衛責任の観点から一層全面的に協力することになる。
他方、コバニでイスラム国と戦闘を続けているクルド人部隊を支援すべきだとの抗議行動がトルコ内だけでなく、ドイツや英国に住む在欧クルド人によっても行われた。ロンドンでは6日から8日にかけて、市内の中心繁華街のオックスフォード・サーカス、ヒースロー空港、英議会前広場や英首相官邸前で、「キャメロン(首相)はイスラム国の脅威について話をするのは得意だが、クルド人への実際的な支援はどこにあるのか」などと主張して、英政府がクルド人部隊を軍事的に支援するように訴えた。
英国内には約5万人のクルド人が住んでいるが、オックスフォード・サーカスでは約50人のデモ隊が地下鉄駅を一時的に占拠。ヒースロー空港でもチケット売り場付近を封鎖した。英議会前では一時交通遮断をするなどして、世論の喚起を促した。






