法王の狙いは神の祝福の大衆化?


  南米出身のフランシスコ法王は来月5日から19日まで特別シノドス(世界司教会議)を開催する。「福音宣教からみた家庭司牧の挑戦」という標語を掲げた同シノドスには世界の司教会議議長、高位聖職者、専門家、学者らが参加し、家庭問題を主要テーマとして話し合う。

 フランシスコ法王は昨年4月、8人の枢機卿から構成された提言グループ(C8)を創設し、法王庁の改革<使徒憲章=Paster Bonusの改正>に取り組んできた。世界の司教会議はフランシスコ法王の要請を受け、「家庭と教会の性モラル」(避妊、同性婚、離婚などの諸問題)に関して信者たちにアンケート調査を実施してきた。各国司教会議はその結果を持ち寄って10月5日からバチカンで開催される特別シノドスで協議する。家庭問題に焦点を合わせた特別シノドスの開催は初めてだけに、その成果と成り行きが注目されるわけだ。

 シノドス開催を2週間後に控え、離婚、再婚者への聖体拝領問題で改革派と保守派の戦いが始まっている。保守派の筆頭ミューラー教理省長官ら5人の枢機卿は離婚・再婚者への聖体拝領に反対を明記した論文集を来月1日、イタリアと米国で出版する。出版日がシノドス開催直前のことから、「シノドスを意識した反改革派の攻勢」と受け取られているほどだ。
 カトリック教会ではアウグスティヌス(古代キリスト教神学者、354~430年)が夫婦の永遠の絆という教えを作り上げて以来、離婚、再婚は認められていない。正式に教会婚姻を受けた信者だけが神の祝福(サクラメント)を受ける資格があるというわけだ。

 5人の枢機卿の一人、イタリアのベラシオ・デ・パオリス枢機卿は「われわれは教会の教理と実践が乖離することを懸念しているだけだ。離婚・再婚者にはサクラメントを与えないというのが教会の教理だ。それを改正することなく、実践の場で教理に反することはできない」と説明し、教理を変えるか、教理に従った実践をキープするかの選択を改革派に迫っている。

 それに対し、改革派のヴァルター・カスパー枢機卿(前キリスト教一致推進評議会議長)は「教理の是非を協議しているのではない、複雑な状況下で教会の教理をどのように適応するかが問われているのだ」と指摘している。

  フランシスコ法王は昨年11月28日、使徒的勧告「エヴァンジェリ・ガウディウム」(福音の喜び)を発表し、信仰生活の喜びを強調したが、カスパー枢機卿は「教会の教えと信者たちの現実には大きな亀裂があることを正直に認めざるを得ない。教会の教えは今日、多くの信者たちにとって現実と生活から遠くかけ離れている。家庭の福音は負担ではなく、喜びの福音であり、光と力だ」と述べている。ローマ法王を含む改革派は離婚・再婚者への聖体拝領問題では容認方向にある。換言すれば、神の祝福(サクラメント)の大衆化を目指しているわけだ。

 ちなみに、フランシスコ法王は今月20日、婚姻無効手続に関する簡易化を協議する特別委員会を設置している。教会では婚姻無効表明手続きまで長い年月がかかるうえ、2つの教会審査を全会一致で乗り越えない限り、婚姻無効表明はできないことになっている。2012年、世界のカトリック教会では約5万件の婚姻が無効表明されている。

 なお、バチカンは特別シノドス後、来年10月には通常シノドスを開き、そこで協議を継続し、家庭問題に対する教会の基本方針を決定する意向だ。

(ウィーン在住)