狙われたオーストリアの教会


地球だより

 アルプスの小国オーストリアはローマ・カトリック教国だが、その教会の建物が破壊されたり、いたずら書きされたり、火を付けられたりするといった被害を被っている。

 首都ウィーンは音楽の都として世界各地から多くの観光客が来るが、同国カトリック教会の主要拠点で観光名所の一つ、カールス教会の建物正面や十字架像が4日未明、何者かにペンキを掛けられ、落書きされた。同教会はカールス6世が1713年、流行するペストの終焉を祈願して建立された由緒ある建物だ。

 同じ時期、同国西部のブレーゲンツ市にある教会の入り口に何者かが火を付けるという放火未遂事件が発生したばかりだ。早く発見されたので大きな被害はなかったが、警察側は「教会関連施設への破壊行為」として警戒を強めている。

 オーストリアでは今年に入り、教会の建物や施設が破壊されたり、傷つけられたりするケースが増えてきた。3月から4月にかけ、難民のガーナ人が6カ所の教会で聖母マリア像などを破壊している。

 同国では過去、シナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)や墓が破壊されたり、カトリック教会内の備品や歴史的な像が盗まれたりすることはあったが、今回のように教会の建物が破壊されたり、火を付けられたりするといったことはなかった。

 増加する教会関連施設への破壊行動を防止するため、同国教会最高指導者シェーンボルン枢機卿は教会の建物内外に監視カメラを設置する案を検討しているが、信者の中には「信者の祈祷する姿などがカメラで撮られるのは……」といった反対の声も出ている。

 社会学者の間ではクリスチャン・フォビアという用語が使われている。キリスト教一般への憎悪だ。2001年9月11日の米国での同時多発テロ事件以後、イスラム教への嫌悪感が欧米社会に拡大し、イスラム・フォビアと呼ばれたが、ここにきてクリスチャン・フォビア現象が出てきたというわけだ。

(S)