英右派、欧州議会選躍進か
反EU、移民問題でアピール
英国での欧州議会選挙戦で右派政党の英独立党が旋風を巻き起こしている。反欧州連合(EU)と移民問題をアピールして保守層を取り込み、支持率トップに立っている。(ロンドン・行天慎二)
次期総選挙占う前哨戦
保守党支持層取り込む
5年ごとの欧州議会選挙がEU加盟国各国で22日から25日にかけて実施される。右派政党の伸張が予想されている中、英国でも反EUの党是を掲げて移民問題や雇用問題などをアピールしている英独立党(UKIP)が最近の世論調査で支持率トップに立ち、旋風を巻き起こしつつある。4日付の日曜紙に発表された世論調査結果では、欧州議会選挙に関する限りではUKIPは29%の支持率を獲得し、労働党の26%、保守党23%、自民党10%、緑の党7%を抑えている。
UKIPのナイジェル・ファラージュ党首は4月22日の選挙戦スタート時に「地震にも等しいショックを英政治システムに引き起こすチャンスだ。UKIPが選挙に勝つならば、国民投票、国のコントロールを取り戻す機会が飛躍的に近づくだろう」と語り、既存主要政党に対して挑戦状をたたき付けた。有権者の中で今回UKIP支持に回っているのは、主としてイングランド中南部に住む年配の保守層の人々だ。これらの保守層は典型的な“イングリッシュ”(イングランド人)と言われる人々で、本来は保守党支持者だが、ブリュッセルにあるEU統治機構による英国国内法の侵害、EU内からの無制限の移民流入などに憤慨している。
UKIPは保守党支持層を切り崩して、取り込んでいる。これに対して、キャメロン首相は今月8日、BBCとのインタビューで「(UKIP支持者が)いら立っている事柄、心配している事柄を理解している。われわれは(政策を)実行している。実行できない党への無駄な投票はしないように。(UKIPは)こうした問題で魅力的な言葉や表現をしゃべっているが、現実的にその回答を出すことはできない」と語り、怒りで付和雷同的に反応せず冷静に判断するように呼び掛けた。
UKIPが英国で支持を集めているのは、欧州大陸の右派政党とは少し事情が異なる。フランスの国民戦線(FN)、オランダの自由党、ベルギーの「フランデレンの利益」、オーストリアの自由党などが民族主義の立場から移民排斥、反イスラムや反ユダヤ主義など人種差別的な主張をしているのに対して、UKIPは民族主義的観点よりもむしろ国家主権擁護の観点からアピールしている。
UKIPは、地方選挙ではイスラム教徒やマイノリティーの人々(黒人、アジア系など)の候補者も擁立して、右派政党にありがちな「人種差別主義者」とのイメージを払拭し、一般国民に通用する政党になろうとしている。ロンドン市内で7日に行われた選挙キャンペーンでファラージュ党首は「右翼だ、左翼だ、小心者だなど、どう呼ばれても構わない。だが、この瞬間からわれわれを人種差別主義政党とは呼んでくれるな。われわれは人種差別主義政党ではない」と訴えた。
現在UKIPは英国の欧州議会議席数73のうち13を占めているが、英下院では議席がゼロ。ファラージュ党首は今回の欧州議会選挙で議席を2倍に増やすとともに、来年5月に行われる予定の英下院総選挙でも議席を取り、英国の主要政党の仲間入りを果たしたいところだ。しかし、多くの有権者はまだそこまでUKIPを信頼してはいない。前出の世論調査結果では、一般的な政党別支持率は労働党36%、保守党33%、自民党10%、UKIP15%、スコットランド民族党・ウェールズ民族党3%、緑の党2%であり、UKIPは欧州議会選挙の場合ほど支持されていない。
一般有権者の関心が高い政策項目は、経済問題(54%)、移民問題(46%)、医療(38%)、福祉(29%)、欧州問題(26%)、失業問題(24%)、教育(23%)、年金(22%)などだが、UKIPの政策は移民問題と欧州問題では高い支持を得ているものの、その他の政策項目ではほとんど支持されていない。各党の党首への評価でも、首相にふさわしい人物としては保守党のキャメロン党首(現首相)が34%でトップであり、労働党のミリバンド党首15%、自民党のクレッグ党首3%、UKIPのファラージュ党首5%といった具合だ。ファラージュ党首は人気があっても指導者としては評価されていない。
英国で22日に行われる欧州議会選挙と英地方選挙は来春の英総選挙の前哨戦の意味を持っている。与党保守党と野党労働党は支持率で拮抗(きっこう)しており、総選挙ではどちらも単独では過半数を取れない見通しだ。今回UKIPが保守党支持層を大きく切り崩して勝利した場合には、与党保守党は大きなダメージを受けることになる。UKIPの躍進が一過性のものに終わるか、あるいは新旋風が吹き続けるかによっては英政界の地図が大きく変わることになろう。






