欧州人の行方


地球だより

 あなたはオーストリア人ですか、それとも欧州人ですか」と問われれば、オーストリア国民はどのように答えるだろうか。欧州連合(EU)28カ国加盟国の国民を対象に同じ質問をした結果がこのほど発表された(ユーロバロメーター)。

 2013年にも同様の調査が実施されたが、前回比で「自分は欧州人だ」と答えた国民は減少する一方、「自分はオーストリア人(出身国の国民)だ」と答えた加盟国国民が増加している。オーストリア日刊紙プレッセ(11日付)は「欧州人の心はここにきて再び民族主義的となってきた」というタイトルで特集を掲載している。

 調査結果をオーストリア人の場合を例に挙げて詳細に見る。

 A「私はオーストリア人だ」B「オーストリア人であり、欧州人だ」C「欧州人であり、オーストリア人だ」D「欧州人だ」の四つの分類で質問される。その結果、Aと答えたオーストリア人は39%、Bは53%、Cは6%、Dは1%にすぎなかった。すなわち、オーストリア人の場合、「オーストリア人」という意識が強い国民(AとB)は92%であり、「欧州人だ」というアイデンティティーを感じている国民は非常に限られていることが明らかになった。

 欧州の盟主ドイツでは、36%の国民が「自分は欧州人ではなく、ドイツ人だ」と答えている。

 前回比で7ポイント増加だ。EU28カ国の平均値は、A42%、B47%、C5%、D2%だった。民族主義的傾向が強い国民は一般的に財政危機、社会的危機に直面している加盟国が多い。例えば、財政危機に直面したギリシャは民族主義的意識が55%で前調査比で14ポイント、アイルランドは63%で10ポイントと、それぞれ急増している。

 この調査結果だけでいうならば、国境・民族の壁を越え、欧州国民が一つのアイデンティティーを持つという理想の実現までにはまだ道遠しだ。

 ヘルマン・ファンロンパイ欧州理事会議長は「EUは単なる中立的空間を意味しない。全ての国民にとって故郷とならなければならない」(プレッセ紙)と述べている。

 欧州の歴史を振り返ると、「ソ連人」「ユーゴスラビア人」といった人工的なアイデンティティーはいずれも失敗し、歴史から消えていった。全ての欧州国民が「自分は欧州人だ」と感じるようになれば、それは歴史的快挙だ。

(O)