「新冷戦時代」幕開けか EUサミット、露に追加制裁

 先週末開催された欧州連合(EU)サミットは、ウクライナの主権侵害を続けるロシアに対して追加制裁を行う一方、ウクライナへの支援を強化した。EU・露関係はウクライナ危機で冷戦後最悪状態になり、欧州での新冷戦時代幕開けの恐れもある。(ロンドン・行天慎二)

事実上の外交停止

ウクライナ支援強化

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21日、ウクライナ・クリミア半島のセバストポリで、ウクライナの潜水艦から同国の記章を外すロシア兵(EPA= 時事)

 ブリュッセルで20日開かれたEUサミット後、記者会見したファンロンパイEU大統領は「ロシアによるクリミアとセバストポリの併合はウクライナの主権と国際法の明らかな侵害だ。憲法によらないクリミアの住民投票を強く非難する。これを認めないし併合も認めない。21世紀の欧州大陸では武力や抑圧によって国境変更する場所はない」と語り、EUはロシアに対し厳しく対処することを表明した。新たな追加制裁措置として、ロシア高官ら12人の在欧資産凍結とビザ発給禁止、6月に予定されていたEU・ロシア首脳会議の中止、EU各国とロシアとの2国間首脳会談の自粛などが発表され、EUとロシアの外交関係は事実上ストップすることになる。また、今後も改善が見られなければ貿易や投資の制限などの経済制裁を強化する方針である。冷戦終結後これまで20年余りにわたって構築してきたEU・露関係はウクライナ危機で最悪状態に陥った。

 一方、EUは21日、ウクライナと政治・経済協力を進める「連合協定」の政治関連部分に署名し、経済支援の他に、人権侵害、腐敗や汚職を防止する民主的な政治体制作りに協力することを約束し、関係強化を図った。署名後、ウクライナのヤツェニュク首相は「大きな欧州家族の一部になりたい。これは、その最終目標を達成するための途轍(とてつ)もない第一歩だ」と語り、EU加盟への意欲を示した。

 ウクライナ危機に乗じてロシアが外交手段でなく一方的に武力を背景にクリミア併合に踏み切ったことに欧米社会は危機感を募らせている。ロシアのプーチン大統領は18日、クレムリンでクリミア併合を正当化するスピーチを行ったが、その中で、住民投票の結果の尊重、クリミアの歴史的経緯、西側に支援されたとする“ファシズム”の脅威、欧米によるコソボ紛争介入などに言及しながら、欧米の論理による国際秩序作りを批判した。

 民族主義的高揚を掻(か)き立てて冷戦時代に逆戻りするプーチン大統領のスピーチ内容に関して、ヘイグ英外相は同日、英下院で声明を発表し反論した。同外相は住民投票の違法性に関して以下の問題点を指摘した。①クリミアの住民投票はウクライナ憲法に基づきウクライナ議会のみが決定できる②住民投票の実施を非公開で決めたクリミア議会はロシア系武装勢力に支配されていた③ウクライナ指導者が関与できず、全欧安保協力機構(OSCE)による投票基準(ウクライナ旅券を持つ投票者の登録など)を満たしていない④OSCE監視団がいない中でロシア系市民が非公開の移動携帯投票箱に投票⑤投票用紙には現状維持の選択肢がない、など。

 ヘイグ外相は住民投票のみならず、ロシアによるウクライナ干渉の違法性にも言及し、以下の点を挙げた。①クリミアを含めてウクライナ内のロシア系住民は危険に曝(さら)されておらず、ロシア側が一方的にロシア系住民の保護を名目に干渉している②ウクライナの暫定政権は議会で民主的に承認されており非合法ではない。政権交代を理由に新政権に圧力を加えるのは、「ウクライナの政治的独立と領土保全」を確認した1994年12月のブダペスト覚書に違反③外国軍派遣の要請はウクライナ議会が決定権を持ち、ヤヌコビッチ前大統領に外国軍を要請する権限はない④コソボとクリミアは比較対象にならない。北大西洋条約機構(NATO)軍によるコソボ介入は民族浄化阻止のためであり、紛争後国際監視団の下で独立に向けた作業が続けられた。

 ヘイグ外相は「国際的合意の深刻な違反と21世紀の欧州での武力行使による国境変更に立ち向かわないならば、国際秩序の信頼性が危うくなり将来的にもっと危機に直面することになる」と語り、ロシアによる他国への介入を厳しく非難した。そして対抗措置として、英国はロシアとのあらゆる軍事レベルでの2国間協力関係を中止すると発表。また、欧州はロシアへの軍事関連輸出の削減、ロシアからのエネルギー輸入依存の縮小などを実施し、対露関係は急速に冷え込むことになると警告した。

 今回のウクライナ危機は昨年11月21日にヤヌコビッチ前政権がEUとの貿易協定を結ばずロシアとの関係強化を決定したことを契機に火が付いたが、ウクライナは2004年11月の「オレンジ革命」以降、EUとロシアの間にあって揺れ動いてきた。EUの東方拡大(2004年にポーランドやバルト3国など東欧諸国計10カ国、07年にルーマニアとブルガリア、13年にクロアチアが加盟)が進む中で、ロシアは歴史的関係の深い隣国ウクライナを戦略上絶対に手放すことはできないと考えている。プーチン大統領はスピーチの中で欧米諸国への敵対感情をむき出しにしたが、「鋼鉄のように無情で猜疑(さいぎ)的で、競争心が強い人間、プーチン(大統領)はこうした(西側との協力)関係という温和な見解は決して持っていない。西側が勢力と影響を拡大してロシアは屈服するものと期待していることを屈辱プロセスとみるようになっている」(英タイムズ紙19日付)。

 米国とEUは今後ロシアに対して経済制裁を強化するとともに、主要8カ国(G8)首脳会議(サミット)からの除外、経済協力開発機構(OECD)や国際エネルギー機関(IEA)などの国際機関へのロシアの加盟を拒否すると表明しているが、制裁措置や孤立化政策がどこまで効果的かは疑問だ。欧米とロシアとの対立の根は深く、新冷戦時代が東アジア地域だけでなく欧州大陸でも始まる恐れがある。