女性標的の殺人事件が多発ーオーストリアから
地球だより
アルプスの小国オーストリアは、欧州諸国の中でも犯罪件数から見て治安は安定している国に属するが、女性を標的とした殺人事件はここ数年多発する傾向が見られる。今年に入って5月15日現在、11件の女性殺人事件が起きている。元パートナー、元夫に殺害されるケースが多い。
先月30日未明、ウィーン市ブリギッテナウで元夫(42)が元妻(35)の家に入り、拳銃で頭を撃って殺害した事件が起きた。その数日前には、元パートナーが別れた女性が働いているタバコ店にガソリンで火を付けた。女性は病院に搬送されたが、数日後に亡くなった。事件が発生するたびにメディアで大きく報道される。元夫らに嫌がらせや暴行を受ける女性の安全対策が急務という声が出てくるが、事件が収まると忘れられ、また別の事件が起きるという繰り返しだ。
過去7年間の犯罪統計によると、フェミサイド(性別を理由に女性を標的とした男性による殺人)と受け取られる女性殺人事件は2014年は19件だったが、18年には41件と急増し、19年は39件、昨年は31件となっている。
社会学者ヴィースベック氏は「男性の家庭内暴力は些細なことであり、問題視しない傾向があるが、実際は安全問題だ」(オーストリア通信)と指摘。例えば、警察が女性に家庭内暴力を振るう男性を知っていても未決勾留などの措置を取らない。ファン・デア・ベレン大統領はツイッターで、「女性殺人はもはや黙認できない。明確な対策に乗り出すべき時だ。女性憎悪、女性への暴力は絶対に許されない」と強く述べている。
(O)