カナダの期待裏切る米政府
油送管建設で判断保留
左派に取り入るオバマ氏
【ワシントン】カナダの外相は最近、米商業会議所に対して、落ち着いた調子で、ストレートに不満をぶつけた。米国は、キーストーンXLパイプラインに関してカナダに対してすべきことがあるというのだ。「このような中途半端なままではいられない」。煮えたぎるような怒りを抑えるように、カナダ人特有の落ち着いた様子で苦言を呈した。
カナダ人は驚くほど慎重で礼儀正しいところがあるが、オバマ大統領のやり方には納得できずにいる。何年も前に交わされた合意が実行されず、ずっと屈辱的な思いを抱いているからだ。
カナダは今やオイルサンド業界のサウジアラビアだ。この貴重な資源の開発に取り組んでいる。もともとの開発パートナーは米国だ。だが、国境を越えるには米国務省の許可が必要だ。つまり、大統領の意向次第ということだ。
国務省はキーストーンを3年にわたり調査し、重大な環境リスクはないと判断した。ところが、最初のルートは変更された。オガララ帯水層をめぐる懸念を避けるためだ。オバマ氏は、2012年の選挙の間、承認を保留にし、今に至っても決定を下していない。
カナダは驚いている。5年間にわたって引き延ばされており、何らかの決定を得る必要があるからだ。南方へパイプラインを引くことができないのなら、太平洋に向けて西方へパイプラインを引くことも考えなければならない。そうすれば、すぐに買い手はつく。中国だ。
ケリー国務長官は、もう一つ環境報告が来ることになっているというが、いつ決定を下すかについては触れなかった。
オバマ氏は、左翼環境保護論者らにおもねりたいのなら、すればいい。どうして、カナダを宙ぶらりんのまま放っておくのか。同盟国に対する最大の、不当な非礼だが、これは今回が初めてではない。英国、イスラエル、ポーランド、チェコを見下し、サウジを怒らせるだけではまだ足らないようだ。サウジはそのせいで安保理理事国を拒否した。オバマ政権の無責任ぶりと横暴にうんざりしているのだ。米国にとって世界で最も信頼でき、最も親しみのあるカナダに対し、外交上の不手際、不当な損害で応える必要があるのだろうか。
何のためにこのようなことをするのか。言い逃れはできない。キーストーンのケースは明々白々だ。
すべて信じようという人がいるかもしれない。しかし、環境保護論者らはオイルサンドに関して、キーストーンを妨害することでカナダの開発を阻止するという考えはばかげていると言うだろう。カナダは、自国のオイルサンドを自然の恵みであり、重要な戦略的資産と考えている。それをこのまま地中に眠らせておくはずはない。
キーストーンを阻止することで環境面でのメリットがあるだろうか。石油は生産され、燃やされるものだ。それが中国に行くのなら、太平洋パイプラインであっても、米国へのパイプラインであっても、環境へ影響が及ぶのは同じだ。
アルバータの石油を米国に運ぶことはまだ可能だ。パイプランがだめなら鉄道がある。それなら国務省の承認は要らない。だが、その方がはるかに多くの温室効果ガスを排出することになる。環境保護論者が求めているのとは全く逆の結果だ。
さらに、鉄道の方がはるかに危険が大きい。昨年、ケベックに向かっていた油送列車が脱線し、爆発するという事故が起きた。ラックメガンティックの中心街の半分が焼け、47人が死亡、そのうちの多くは、誰か分からないほど焼けただれていた。
これでは論理的に環境保護論にならない。魚のスネール・ダーターの数が減ったなどという話ではないのだ。47人の人が死亡した。その後、米国で2件の油送鉄道の事故が起きている。フィラデルフィアとノースダコタだ。
それだけではない。カナダの石油によって米国は、不安定な中東の石油への依存度を下げ、石油の持つ力を、石油輸出国機構(OPEC)や殺戮(さつりく)の中東から北米にシフトさせることができる。カナダよりも信頼性の高い石油供給源がどこにあるだろうか。
それほど表立ってはいないが、キーストーンの問題でカナダは驚いている。カナダ人は、敵対心や不愉快な気持ちを、ホッケーのゲームで余すことなく発散させることができたのかもしれない。だからといって、米国がカナダの善意を踏みにじっていいことにはならない。
パイプラインの拒否を合理的に説明する唯一の理由は政治だ。オバマ氏は過激な環境保護論者らに取り入ろうとしている。イデオロギーにはとらわれないと宣言した大統領にとっては、皮肉な話だ。すぐに利用できるインフラがあり、民間で建設され、政府は一切支出する必要はなく、何千もの雇用を創出できる。オバマ氏の好きな「すぐに取り掛かれる」仕事だ。しかし、大統領は、新しい「インフラ」を、経済が基本的に必要としているものとして推進するばかりで、パイプラインを受け入れようとしない。
大統領に言っておきたい。いずれにしても、あなたにはカナダに対して果たすべき責任がある。5年で十分だ。