ワクチン接種遅らせる「お役所仕事」ーフランスから


地球だより

 フランスに半世紀以上住み、孫もいる高齢の日本人女性が最近、新型コロナウイルスワクチンを接種したがらないフランス人を嘆き、「専門家が接種すべきでないと言えば、ひねくれ者たちが案外受けるかも」と、筆者に冗談交じりに語った。

 感染規模は英国やイタリア、ドイツと同じ状況なのに、例えばドイツのワクチン接種件数はフランスの10倍以上で、フランスの「お役所仕事」が批判された。マクロン大統領が激怒し、首相や保険相に活を入れたことで、ワクチン接種で義務だった事前診察などを任意に変更し、スピードアップ中だ。

 フランスのお役所仕事の遅さは、欧州で超有名。2015年にシリアやイラクから大量難民が押し寄せた時、フランスへの難民申請希望者が極端に少なかったのも、役所の処理が非常に遅いという情報が彼らに伝わっていたことも理由の一つと言われている。

 実際、申請から3カ月以上回答がなく、路上生活を強いられた難民も少なくなかった。

 日系大手自動車メーカーのパリ駐在員は「業務で最も困るのは、報連相の習慣がなく、仕事の進捗を管理できないことだ」と言っていた。

 日系電機メーカーのパリ支社長を務めるフランス人に聞くと、「フランスでは意志決定者は決定するまでが仕事で、どう実行されているかをチェックするのは自分たちの仕事ではない」と語った。

 ほとんどの仕事で遅れが出るのは、昇進が望めない一般事務員のモチベーションの低さも影響している。日本より手厚い労働法で守られている彼らに「もっと働け」というマクロン大統領の支持率が伸びないのも無理はない。

(A)