ベートーべン「歓喜の歌」を


オーストリアから

 今年はベートーべン生誕250周年。新型コロナウイルスの感染拡大がなかったならば、欧州各地で今ごろ、生誕250周年を記念するイベントやコンサートが開催されていただろう。

 ベートーべンは1770年12月16日、ドイツのボンで生まれたが、21歳の時、ウィーンに移り住み、56歳で亡くなるまでウィーンで作曲活動をした。ウィーンでは「衣服を着替えるように、住居を転々とさせた」と言われるほど、引っ越しを繰り返した。

 ベートーべンは生涯、苦悩と共に生きてきた。特に、28歳ごろから難聴で苦しんだ。音楽の世界に生きる人間にとって、致命的な病だ。一度は死を考えたが、神が与えたその才能を完全に燃焼させるまで作曲活動を続けることが自分の使命と考え、最後まで走り切った。ベートーべンの「苦悩を抜けて歓喜に」という言葉は有名だ。

 ボン時代、フランス革命(1798年)の報を聞く。王権、貴族階級が崩壊し、自由と平等、博愛を賛美する時代の到来を告げたフランス革命に、当時19歳だったベートーべンは大きな影響を受けた。彼は当時、詩人シラーの「歓喜に帰す」という詩に曲を付けることを考えたと言われている。交響曲第九番4楽章「歓喜」では独唱、合唱が入る。交響曲で独唱、合唱が入ることはこれまでなかっただけに、革新的なものだった。

 世界のベートーべン・ファンは、新型コロナが恨めしいだろう。このような時だけに、ベートーべンの「歓喜の歌」が響き渡ればどれだけ心が解放されるだろうか。今こそ、「歓喜の歌」を!

(O)