EUが対中外交を転換 国安法めぐり新たな制裁
英仏が5Gでファーウェイ排除
欧州連合(EU)は先月28日、香港に対して反政府運動を取り締まる国家安全維持法(国安法)を導入した中国政府に新たな制裁を科す方針を決めた。さらに英仏は次世代通信規格「5G」整備計画で中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)排除に乗り出し、EUの対中外交は転換の時を迎えている。
(パリ・安倍雅信)
EU・中国の当局者が投資協定をめぐる協議を行った先月28日、EU加盟国は国安法を導入した中国政府に新たな制裁を科すことで合意した。
その1カ月前の6月22日、EUはテレビ会議形式で中国との年次首脳会談を行い、焦点となっている投資協定交渉について、国有企業や補助金問題で中国に改善を迫ったが進展がなく、溝が埋められない状況にあることが露呈した。欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、中国の習近平国家主席に対して「覇権ではなく平和を望む」と念を押した。
「中国との関係は戦略的に最も重要であり、同時にわれわれにとって最も困難なものの一つだ」(フォンデアライエン委員長)というのがEUの認識だ。同時に「国際情勢がどのように変化しても、中国は多国間主義の立場を取り、広範な協議、共同の貢献、利益の共有というグローバルガバナンスの概念を順守すべきだ」(同氏)と強調している。
EUの新たな対中制裁措置は、抑圧や通信傍受、インターネット上の監視に用いられる恐れのある機器や技術の香港への輸出を制限するというものだ。同時に加盟各国が香港と結んでいる犯罪人引き渡し協定の見直しも盛り込まれた。EUからの離脱を決めている英国をはじめ、カナダ、オーストラリアなどが引き渡し条約の凍結を既に決めている。
この件では、中国に対してEUで最も深い経済関係を持ち、対中政策で中国に甘いと言われていたドイツのマース独外相が7月31日、香港との犯罪人引き渡し条約を停止すると表明した。マース氏は、国安法だけでなく香港政府の立法会(議会)選挙延期と一部民主派の立候補禁止は受け入れられないと批判した。
EUはこれまで米トランプ政権に対しては一貫して一定の距離を置き、対中外交でも強硬姿勢は取ってこなかった。しかし、香港の国安法に続く香港立法会選挙延期、民主化候補の排除、さらにはウイグル族への弾圧に対して、米国に追随するよう方向転換したとみられる。
英国やフランス政府は5Gの整備計画についても、中国のファーウェイ製品の使用を英国では2027年、フランスでは28年までとすることを7月に決めた。
中国当局は欧州との緊密な協力関係を繰り返し求めてきた。EUの前身、欧州経済共同体(EEC)が中国と外交関係を樹立した1975年以来45年間で、両者の関係は今、最も冷え込んでいると言える。
気候変動やグローバルガバナンス(世界貿易機関=WTO改革を含む)、持続可能な開発など、他の重要なテーマに関しても中国側の具体的な協力行動は認められず、中国側は美辞麗句で問題を曖昧にした。新型コロナウイルスのワクチン開発でも中国は欧州との共同研究には消極的だ。
欧州の世論調査では今、新型コロナの深刻なパンデミック(世界的流行)の最大の責任は中国政府にあるとの見方が大勢を占めている。英国人とフランス人の60%、ドイツ人の47%が中国政府を世界の悪の勢力であると見なしており、パンデミックによって彼らのネガティブな見方はさらに強まっている。
2008年のリーマンショックによる経済危機の時、中国国有企業の対EU投資は概ね歓迎されていた。しかし、今は警戒感が過去にない高まりを見せ、中国の投資家の関心も薄らいでいる。加えて中国の工業化に不可欠な高度な工作機械を供給してきたドイツも、EU議長国になったことでドイツだけ甘い対中外交を取るわけにはいかない状況にある。
19年、中国とEUの関係はターニングポイントを迎え、今年に入って新型コロナの拡散に関して中国が積極的に情報開示しなかったことにEU首脳は苛立った。欧州のアプローチはトランプ政権とは今も異なる部分は多いが、欧州から中国に歩み寄る空気がないことは確かだ。