ゲーム障害、前頭前野の働き低下

元日大教授 森 昭雄氏に聞く

 世界保健機関(WHO)は5月、日常生活に支障が出るほどゲームに没頭する「ゲーム障害」を、依存症として正式に認定した。2000年代初頭からゲームのやり過ぎは脳に悪影響を及ぼすと訴えてきた森昭雄・日本大学大学院非常勤講師(元日大教授)に、ゲーム依存症の子供たちが増えている状況にどう対応すべきか聞いた。(聞き手=岩城喜之)

プレー時間1日15分以内に
スマホ普及で依存症増加

WHOがゲーム障害を依存症として認定した。これについてどう考えるか。

森昭雄氏

 もり・あきお 昭和22(1947)年、北海道生まれ。生理学者、脳神経科学者。日本大学文理学部卒業後、同大学大学院文学研究科修士課程修了(文学修士)。日本大学教授などを経て、現在は同大学院非常勤講師。著書に『ゲーム脳の恐怖』(日本放送出版協会)、『ネトゲ脳緊急事態』(主婦と生活社)など多数。

 今は、電車の中でゲームをしている若者がかなり増えており、ゲーム依存に陥る人も多くなっている。状況はどんどん悪化していると言えるだろう。ゲームがすべて駄目だとは言わないが、やり過ぎると社会的コミュニケーションが希薄になる危険性がある。気分転換に15分くらいやるのはいいが、1日に5時間もやるのは問題だ。

 現代の子供は親がゲーム世代だったから、親もゲームに抵抗感がなく、ますます深刻化する恐れがある。

ゲーム依存に陥る子供が増えているのは、スマートフォン(スマホ)の普及で、いつでもどこでもゲームができるようになったことが大きいのか。

 スマホの普及でゲームを長時間プレーする機会が増え、依存症が急増する原因になっている。どれくらいゲームをしているのか親も把握できないようになっており、非常に危険な状態だ。子供がプレーするうち、8割くらいがスマホのゲームだと言われている。スマホで生活が便利になったのは確かだが、使い方に気を付けないといけない。いい面と悪い面をしっかり見極めていく必要がある。

2000年代から著書『ゲーム脳の恐怖』で、ゲームをやると脳に影響を与えると訴えてきた。ゲーム依存になると、どのような状態になるのか。

 ゲーム依存は、見たらすぐ分かる。まず笑わなくなり、無言になる。そして特定の言葉に反応して、突然キレるようになる。

 韓国や欧米の研究では、前頭前野の働きが低下することも報告されている。前頭葉は理性を司(つかさど)る役割があるが、ゲーム脳になると、その抑制が利かなくなる。また、脳画像を確認すると、薬物依存者との類似点も見られる。ドイツのある学者は、遺伝子に影響を与える可能性もあるとまで言っている。

 表情が乏しい、しゃべらない、本も読まないなどが続いたら危険信号だ。

ゲーム依存の兆候が現れたら、どう対応すればいいのか。

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正常者(左)とゲーム依存者(右)の脳の働きを比べた断面図。前頭前野(丸で囲まれた部分)の活動が低下していることが分かる(森昭雄氏提供)

 日記をつけるといい。その日にあったことを思い出して書くことが大切で、縦に書くと、曲がったりしないよう、きれいに文字をそろえようと美的意識が高まる。

 あとはキャンプに行って、自然と触れ合うことも必要だ。ゲームを作っている人は、意外と自然と触れ合うことを大切にしている人が多い。

 韓国では、ゲーム依存からの脱却としてキャンプに連れて行ったり、サッカーやバスケットボールをやらせている。自然と向き合うことが大事なのに、日本ではそうした面が欠落していた。

 家族とコミュニケーションを取ることも大切だ。お手玉も脳に良い。

 たまに「30歳を超える子供がゲームをやめないが、どうしたらいいか」と相談を受ける。そういう場合は、無理に取り上げると暴力的になって、親が被害を受けることになりかねないので、気を付ける必要がある。「親子で対話したり、旅行したりしなさい」と教えている。

自然に触れ合うと、どのような効果があるのか。

 自然の中にあふれている川や風の音に触れれば、ゲームでは感じられない人間としての感性が生まれる。自然の音は特定のパターンがなく、絶えず変化している。そういう揺らぎなどがいいのだろう。

今後、ゲーム障害に対してどのような対策を進めるべきか。

 やはり時間制限だろう。プレー時間を1日30分以内、できれば15分以内にすべきだ。ビル・ゲイツも子供にインターネットを45分に制限させている。

 ある小学校での実験では、1日15分だけにしたら子供はゲームをやらなくなり、外で遊ぶようになった。

 国際的にゲームの時間制限を設けることも考えないといけない。早くからゲームに触れると依存症に陥りやすいため、特に幼児にはやらせないことが大切だ。小学生でもご褒美としてやらせるにはいいが、時間を決めることが必要だ。

政府は、昨年になってようやくゲーム障害の実態調査を始めた。

 私が「ゲーム脳」の恐ろしさを訴えていた2002年頃、国会でも質問されるなど問題になっていた。それにもかかわらず、今になって実態調査をしているようでは、遅いと言わざるを得ない。

なぜ日本は諸外国に比べてゲーム依存への対策が遅れてきたのか。

 経済を優先してきたことが大きい。ゲーム会社が儲(もう)かるから、規制しにくい状況にあった。ゲームのアプリを入れられないスマホを作っても売れないから、作ろうとしない。ゲームのマイナス面についても、あまり考えてこなかった。

 今後は、国を挙げて子供の脳を保護するという観点で、真剣に取り組む必要がある。