メディアの信頼回復急務
世界日報 ワシントン・タイムズ社長対談
提携関係の強化も確認
トランプ米大統領が大手メディアと対立し、ソーシャルメディアを通じて国民に直接情報発信を続けていることは、新聞など既存メディアの役割や報道姿勢について大きな問題提起をしている。そうした中、世界日報の黒木正博社長は、本紙姉妹紙ワシントン・タイムズ(WT)のクリストファー・ドーラン社長とメディアの責任について対談し、公正な報道を通じて国民の信頼を回復することが急務との認識で一致した。
ドーラン社長は、ニューヨーク・タイムズ紙やCNNなど米大手メディアは「トランプ氏を嫌うあまり」、本来区別すべきニュースとオピニオンの「基準を放棄している」と批判。トランプ氏に反撃されることで、メディア自身が「ニュースの一部になりつつある」ことが、「米国のジャーナリズムにおける最大の問題」だと指摘した。
これに対し、黒木社長は、トーマス・ジェファソン第3代米大統領が「新聞のない政府と政府のない新聞のどちらかを選ぶとするなら、私は躊躇(ちゅうちょ)なく後者の政府のない新聞を選ぶ」と語ったことについて、「新聞がいかに信頼できる役割を果たしているかということが前提にあってこその発言」だと指摘。メディアはトランプ氏の問題提起を真摯(しんし)に受け止める必要があるとした上で、「新聞、メディアがやはり重要だというのは変わらない」と強調した。
両社長はまた、世界日報とWTの提携関係を一層強化していくことを確認した。
公正報道がメディアの責任
ワシントン・タイムズのクリストファー・ドーラン社長と世界日報の黒木正博社長との対談は以下の通り。
ネット時代も不変の価値
大手は「反トランプ」固執
黒木正博世界日報社長 きょうは、ドーラン社長とメディアの役割について、意見交換したいと思います。
クリストファー・ドーラン・ワシントン・タイムズ社長 メディアの目的は非常に単純で、私の考えでは、ニュースは、選挙で選ばれた公職者の方針や実行に移されていることについて判断することができるように、情報を一般市民に提供することです。

ワシントン・タイムズ社長
クリストファー・ドーラン氏
クリストファー・ドーラン 1969年、ニューヨーク州生まれ。リーハイ大学卒(ジャーナリズム専攻)。タイムズ・ピカユーン紙、オレゴニアン紙などを経て、2001年、ワシントン・タイムズに入社。議会担当やマネージング・エディター、編集局トップのエグゼクティブ・エディターなどを歴任。1月1日付で社長に就任。
私たちにとっては、オピニオンとニュースでは非常に大きな違いがあります。今、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなどのトップ紙を含む多くのメディアがトランプ大統領を非常に嫌うあまり、こうした基準を放棄していますが、われわれはこれを維持するために一生懸命取り組んでいます。
これらメディアによる多くのニュースは、自分の意見に固執したものになり、非常に有名なジャーナリストのボブ・ウッドワード氏ですら、CNNや幾つかのメディアは、大統領に対する個人的な怒りが彼らの報道に影響を与えて、道に迷っていると言っていました。しかし、それでも、これまで、私たちはこの二つをしっかり区別するようにしてきました。
一方で、コメンタリーページのオピニオンライターは、われわれが提供する情報を元に読者が判断するのを助けます。しかし、私たちの目標は、一般の米国人に自ら判断できるように情報を提供することや、すべてのニュースに両者への公正さが含まれるようにすることです。われわれは、特に今、他のメディアと比べ、それがとてもよくできていると思います。
黒木 私もドーランさんの意見に賛成です。やはり、トランプ大統領の表面的な言動に振り回されて彼の言う本質、彼が何をやりたいのかということに対する議論があまりなされていないような気がします。
ドーラン それは非常に顕著なことで、一般の人たちもそのことによく気付いていると思います。全国の指導者たちもそのことが分かっています。
黒木 日本はどうしても米国のメディアに引きずられている面があります。おそらくトランプ氏の評価についても、米国のメディアに影響されている面が多分にあると思います。
ドーラン それは問題です。なぜなら、米国の主要メディアは、リベラル的傾向があるからです。トランプ氏は、対決的な姿勢のため、槍玉(やりだま)に挙げやすいと言えます。トランプ氏はまた、批判的な報道を甘受するのをよしとしない近年で初めての共和党大統領だと思います。
一方、こうしたメディアは、反撃されるのに慣れていませんでした。米国のジャーナリズムにおける最大の問題は、彼らが、ニュースの一部になりつつあることです。そして、彼らはそれを報じません。
黒木 メディア、特に新聞についてよく言われることに、第3代大統領ジェファソンの有名な言葉があります。新聞のない政府を取るか、政府のない新聞を取るかといったときに、ジェファソンは「躊躇(ちゅうちょ)なく政府のない新聞を選ぶ」と言った。これは言論の自由、信教の自由を非常に重視したということでよく使われるフレーズです。しかし、その言葉をもってして、今のトランプ氏はそれを理解していないという意見や受け止め方が多いようですね。
ドーラン トランプ氏は、それを誰よりも理解していると思います。他の人が自由に発言する権利を喜んで認めるでしょう。しかし、彼自身も自由に発言します。そして、彼と以前の大統領の違いは、彼は政治家ではないということです。彼はビジネスマンで、メディアを彼のビジネスに注目を集めさせるという彼自身の目標のために常に巧みに扱うことができました。
黒木 結局、ジェファソンの言葉は、新聞がいかに信頼できる役割を果たしているかということが前提にあってこその発言でしょう。もちろん新聞の価値を強調したものですが、その前提として新聞自身がいかに信頼性のある役割を果たしているかということがあるのだと思います。
トランプ氏の言っていることの問題提起は、むしろ新聞およびメディアがその役割を果たしているかということを突き付けたものと言えますね。
ドーラン その通りです。この他に変化したことは、今は、以前よりはるかに多くのメディアがあるということです。トランプ氏がソーシャルメディアに関して気付いたことは、報道機関を迂回(うかい)し、直接支持者に彼が行っていることや、それがどう成功しているかについて伝えることができるということです。これとともに、トランプ氏はメッセージを発信するためインタビューの機会を多く設けています。
それによって、主要メディアがトランプ氏を攻撃したとしても、支持者たちは依然としてトランプ氏からメッセージを受け取ることができます。人々が多様なものを消費するようになったように、今日の多くの読者は一つではなく、多くの媒体を読むようになりました。
黒木 そういう時代において、メディアの信頼性を回復するために、ドーラン社長は、どういうことをすべきだと考えますか。
ドーラン 私たちがすべきことは、意見の異なる両サイドからの情報や詳細を伝えるという基準を維持することです。われわれの役割は、あるテーマについて重要な情報を継続して提供し、それによって人々がそれぞれの意見を形成できるようにすることです。その過程のある時点で、それらを一つの形でまとめ、読者に提供します。その後さらに発展していきます。ニュースの面で、私たちが気に掛けているのは、読者が判断できるように信頼できる情報を提供することです。
一方、コメンタリーページでは、どのように考えるべきか積極的に発信する人が多くおり、彼らの論評を載せています。あることがなぜこのように進行すべきなのか、議論を提供してくれます。
黒木 新聞も大きな間違いを犯すことがあるし、信頼を失うことが今まで積み重なってきた状況がありました。そこで、今どういうことが起きているかというと、今まで大企業、マスコミが独占していた情報提供をSNSやインターネットを通じて個人がそれぞれ発信する時代になっています。むしろ、個人が発信する情報が大きなメディアの間違いを指摘したり、糾弾したりする現象が起きています。
それについては、われわれメディアは本当に自戒しないといけませんが、一方で個人発信の情報、メディアが妥当かというと、非常に根拠のない情報を発信したりする弊害もあります。
ドーラン その通りです。しかし、ある意味で、それはあるシステムに伴う弊害の一つです。これからも修正があるでしょう。常に修正はあります。人々は、彼らが少しやり過ぎたと分かっています。しかし、私たちは様子を見ます。というのは、米国では今、政治的な力が働き、以前より党派的で、隔たりが大きく見えます。しかしこの傾向もやがて過ぎ去るでしょう。そう願っています。
黒木 そういう意味では、長く新聞をはじめとしたメディアが築き上げてきた信頼性は今は衰えたと言っても、大きな基盤があるので、新聞、メディアがやはり重要だというのは変わらないと思います。
ドーラン 消費者ブランディングの組織が出した調査結果によると、私たち(ワシントン・タイムズ)は最も信頼される報道機関の一つと評価されました。新聞社、ラジオ、テレビの中でトップ10に入りました。
私たちにとって、最も重要なことは、いろいろな形で、ワシントンの外に出て、ワシントンの政治家が言っていることと、それが人々にどのような影響を与えているかを比べて報じることです。
黒木 紙媒体を中心とする既存のメディアがだんだん相対的に衰えている状況がありますが、こういう中で、インターネット時代におけるメディアの役割、状況が一層問われてきますね。
ドーラン それは、まさに伝達システムの問題です。だから、それはもう一つの変化、人々がどのように消費するかということです。だから、最も大きな問題は、われわれはインターネット向けに記事を書きたくないことです。インターネットが記者の報道スタイルを、より短く、より早く、見出し重視に変えてしまったからです。
ですから、われわれの目標は、ジャーナリズムを維持し、大きな視点で記事を書きながら、それをインターネットを通じて読者に届けることです。
黒木 最後に、ワシントン・タイムズは首都圏において、非常に影響力のある新聞です。そのような立場からドーラン社長は日米関係をどう展望されていますか。
ドーラン 昨年、私は日本を訪れ、日米関係は非常に強固だと感じました。トランプ氏と安倍首相は、強固な関係を築いてきたと感じました。オバマ前大統領は在任中の8年間、言葉とは裏腹に、この地域全体で何が起きているかについてそれほど注意を傾けてきませんでしたが、トランプ氏はより関心を持ってきました。
米国人は一般的に、世界で何が行われているかに非常に関心を持っています。それを観察します。しかし、深く知ろうとはしません。どう対処するかについては、指導者に任せています。
一方で、米国は日本について、文化の面で非常に尊敬しているということにも触れておきたいと思います。職業倫理から料理まで素晴らしいです。
黒木 日米関係は、今まではどちらかというと日本は米国の安全保障の庇護の下に動いてきましたが、これが安倍政権になって、安保法制を作ったり、いろいろな意味で、米国と一緒になって、世界平和の構築、アジアの平和を構築しようという意図が前面に出てきたことは大きな進歩だと思います。
ドーラン その通りです。
黒木 安倍首相の言う「自由で開かれたインド太平洋構想」は日本だけの安全だけに固執する世界観ではなくて、日本がアジアと世界の安全保障に貢献していこうとする姿勢の表れだともいえます。それに対しメディアが建設的な提言をしていくことがこれから重要になってきています。
ドーラン そのためにも、世界日報との提携・協力関係をさらに深めていきたいと思っています。
黒木 ぜひ、そうしたいですね。きょうは貴重なご意見、ありがとうございました。
ワシントン・タイムズ紙
1982年に米首都ワシントンで創刊された保守系日刊紙。ソ連による世界共産化を阻止し、米国の伝統的価値観を重んじる論調を掲げ、評価を高める。当時のレーガン大統領が毎朝、最初に読んでいた新聞としても知られる。ソ連崩壊に決定的役割を果たしたレーガン政権の戦略防衛構想(SDI)を支持するキャンペーンを展開。主なスクープは、ソ連に工作機械が不正輸出された87年の東芝機械ココム違反事件など。現在は月曜日から金曜日まで週5日発行。全国版週刊紙と電子版も出している。米調査会社シモンズ・リサーチ社が昨年実施したメディアの信頼度調査では10位に入った。