子育て環境を求め(島根県・海士町)
田舎の魅力子供たちも把握
海士町15歳未満の子供人口は2010年まで減少傾向にあったが、11年からは横ばい状態が続いている。その要因を町では移住者の増加や一連の少子化支援策の成果とみている。
健康福祉課の沼田洋一課長によると、子供を1人か2人連れて島に移住する夫婦は「子育て環境を求めてきた人たち。緑や海に囲まれて、いろんな体験を家族ででき、こっちで暮らすようになって、また1人か2人生むということもある」と語る。
海士町では少子化対策の支援が手厚い。
結婚祝い金として1組のカップルにつき5万円を支給。妊娠時に掛かる交通費や宿泊費にも助成金を出しており、島外出身の妊婦が里帰りで出産する場合、交通費は最高5万円まで助成される。
出産にも祝い金が支給され、1人目は10万円、2人目は20万円、3人目は50万円、4人目以上は100万円と子供を生むたびに支援額が増えていく。
沼田課長は同町の出生数について「ここ数年は17~19人で推移している」と説明した上で、「地元の夫婦が生んだ子供とIターンの夫婦が生んだ子供は、割合として6対4とほぼ半々の状態。もしIターンがいなければ、今よりも子供の数は減っているはずで影響は大きい」と指摘する。
共働き家庭や親戚が町内にいない子育て家庭が増加しており、17年には保育希望の0歳児の数が増え、受け入れ可能な保育士が足りなくなることがあった。これに対応するため、町が臨時の託児所を1年間開き、保育士の資格を持った人など地域の女性9~10人に依頼して月曜から金曜までシフトを組んだという。沼田課長は「小さい町だから、この人にお願いしたらいいのではという目星はあった。今後もニーズがあれば対応していきたい」と語る。
一方、町には隠岐島前(おきどうぜん)高等学校という県立高校がある。それが「子供を高校生まで育てられる」という移住増加の要因の一つになっている。
同校は一時統廃合となる危機もあったが、島外からの生徒が寮生活をしながら学べる島留学制度を新設。また、個別のキャリア実現と学習意欲向上を目的とした外部講師による出前授業を実践し、08年度は27人だった新入生が今年度は51人となる増勢ぶりだ。
海士町中央図書館主任で、同町教育委員会にも携わる磯谷奈緒子(44)さんは「15年くらい前はみんな地元の高校に行かず、本土の高校に行く生徒が半分以上という時期だった。島にいるより町に行った方がいいという雰囲気があったが、最近は島に活気が出てきて、親も子供も海士町に未来があると感じ、ほとんどの島の子供が島前高校に進学するようになった」と語る。
また「子供たちが島での自然体験や町の頑張っている大人に会って話を聞くなどの体験教育の中で、町に対するプラスのイメージを持つようになった」と指摘。
磯谷さんの長男も現在、島前高校に通う高校1年生で「(将来は)海士町がいいと言っている。東京などの都会は物騒で怖いし、別に住みたくはないらしい。人の良さやのどかさなど田舎の良さを冷静に把握できている気がする」と語った。
「人の流れを地方に取り戻したいのであれば、魅力のある地域にしていくしかない。ほかの所に出させないのではなく、前向きにこの土地を選択できるようにしなければ」と磯谷さんは前を向いた。
(人口減少問題取材班)