発泡酒、ワインも製造(福島県 二本松市東和地区)
原発事故の風評乗り越え
2011年(平成23年)3月11日、東日本大震災が発生、関元弘さんが福島・東和地区に移住して5年目のことだった。
関さんを含め、20人ほどが集まり設立された有機農産物を栽培・販売する農家の集い「オーガニックふくしま安達」は被災地などに向け、懸命に販路を拡大した。だが福島第一原子力発電所事故により、「福島の農産物は危ない」という風評被害は瞬く間に広がり、結局、3年でその出荷先をなくしてしまった。
「放射線の本当の影響は分からないが、『なぜ、わざわざ福島産の有機農産物を買わなくてはいけないんだ』という客はやはりいるようで、私たちも首都圏に向けて販路を作っていたが、だんだん売りにくくなった」と振り返る。
震災の困難は、自然相手の生業の限界か、と思わせる状況を生み出したが、関さんはへこたれなかった。「一年間を通して食と農に関した仕事で生業を成り立たせるというのが当初からの考えだった」からだ。
紆余(うよ)曲折しながら、その後、発泡酒製造の免許を取得、自宅の納屋で発泡酒を造ったり、5年前には地域の人たちとワイナリー「ふくしま農家の夢ワイン(株)」を設立、創業者の1人となった。このように冬場の稼ぎ対策を施し、農繁期は農業をするというサイクルが少しずつ生まれた。
「夢ワイン」では現在、取締役。実務はしないが、同社ではアルバイトを含め地元の若者7~8人を雇用、関さんもその運営に知恵を絞っている。地元のりんごを使ったシードル、自分たちが栽培したぶどうのワインなど地酒づくりに取り組む。
「今、日本の農業で中山間地域はほぼ見捨てられているような感じですね。でもやりようによってはいかようにもなる。よその考えを持ってこないで、地に根ざしたものをやっていけば、無理しなくてもできる、そういう自信めいたものはありますね」
有機野菜では、ほうれんそう、豆類、きゅうり、ミニトマト、大根など、最近、首都圏のニーズも高まってきた。「やはり2020オリンピックの影響でしょう。おととしの暮れあたりから話がきていたが、ここにきて有機農産物に対する引きが強くなっています」。
移住から12年。人の気をそらさない明るく陽気な関さん。酒所の二本松がお気に入りだ。
阿武隈山系に位置するこの地区は、りんごを中心とした果樹や葉たばこ栽培も多い。その地形から遊休農地が多く、それを積極的に利用し、桑の葉や桑の実などの特産品の加工・販売に取り組んでいる団体もある。
関さんに限らないが、移住先として、何も縁のないところに飛び込むのは一種の冒険だ。しかし営農の方向は他人が決めるわけではない。若い夫婦が主体にやる農業であれば、農地受託で大規模農業をやるのもよかろう。またよい勤め先があれば、兼業で農業以外の収入を増やせば良い、ということだ。
「稼ぎの手段はいっぱいもっているほうがいい、自分のしたいことを中心に、生業を作っていく」という関さんの生活方針は実際的、建設的だ。
(人口減少問題取材班)