食の欧米化とがん “ABCD包囲網”で健康長寿
美浜ホームクリニック院長 小林常雄氏に聞く
わが国は世界に冠たる長寿国となった。だが一方で寿命は長いが、多くが要介護だったり寝たきりで「健康寿命」が短いという問題も抱えている。健康長寿を全うするためには何が必要なのか、美浜ホームクリニック院長の小林常雄氏に聞いた。
(聞き手=池永達夫)
がん発生と食生活は大きな関わりがあるのか?
しっかり歩きビーフ敬遠/理想的食習慣は日本食
冷蔵庫も成人病増加の一因
大いに関係する。ピロリ菌を除去したり塩分を控えたりしながらも、胃がんは減っていない。超高齢化ががんを増やしていると言う人がいるが、バブルの頃から急速に西洋食を取り入れたことが大きい。

こばやし・つねお 1944年鳥取県生まれ。鳥取大医学部、東大大学院卒業。「人間はなぜ治るのか?第1回癌からの生還」NHK(ETV)治療ルポが反響を呼ぶ。著書に「ついにわかった癌予防の実際」「ガン病棟7割生還」など多数。
1977年に、アメリカで「マクガバンレポート」が、発表された。当時のフォード大統領が、「医療がこれだけ進んでいるのに、どうしてがん死が戦争犠牲者よりも多いのか」と疑問を呈したのを契機に、2年かけて5000ページにわたる「レポート」を完成した。
その当時アメリカでは心臓病の死亡率が1位で、がんは2位だった。心臓病だけでもアメリカの経済はパンクしかねないと言われるほど、医療費が増大。そうした財政的危機を何とか打開しようということで始められた調査だった。
同レポートの中で、理想的な食習慣は日本食だと結論付けられている。
ご飯を中心に、一切れの魚に多めの野菜のおかず、油や砂糖を少ししか使わない伝統的な日本の食事が理想的な食習慣だと言うのだ。
マクガバンレポートで「日本食は理想食」と言っているとき、日本は逆に食の欧米化を進め、がんを増やしていっただけのことだ。
乳製品は戦前に比べ100倍も増え、肉は20倍に増えた。小麦を原料としたパン食が急増し、米と魚の摂取量が減った。
がん発生を抑える生活にするには、具体的にどうすればいいのか?
私は現代の“ABCD包囲網”と言っている。健康ABC運動と言ってもいい。
Aはしっかり歩く、アルミの缶ジュースもアルミ鍋も使わない。Bはブレッド(パン)やビーフ(牛)を食べない。牛乳を飲まない。Cはケーキを食べない。塩素水を飲まない。Dは電子レンジを使わない。電子レンジで温めるとき、局所的には200度、300度になる。この温度で脂肪とかタンパク質は発がん物質に変わる。
一番いいのは日本食に戻すことだ。江戸時代の日本食に戻すことが不可能ならば、せめてタイとかインド食を取り入れればいい。欧米食を真似る意味は全くない。
パンやミルク製品は、乳がんだけでなく、すべてのがんを増やした。食事の中でタンパクが5%以下だと大丈夫だが、20%以上だと発がん物質を出すとのデータがある。
白米は、横に書けば粕(かす)だ。胚芽(はいが)を取った粕がおいしいというのは、そもそもおかしい。江戸時代、姫様が白米を食べているということで、銀シャリがいいと庶民に広まったが、本来、健康な人が食うものではなかった。
ともかく、ぼけずに生きないと話にならない。
養護施設に行ってみて欲しい。青い空に似せた青い天井を見て、点滴で栄養を補給し生きてるか死んでるか分からないような、家族に迷惑かけながら死んで何をするのかと、言いたくなる現状がいっぱいある。
欧州ではぼけたら、点滴なんかすべきじゃないというのが共通認識として広がっている。まだ日本は、かわいそうだからといって管を入れて点滴し、長生きさせている。
長寿の秘訣は?
まずおいしいものを食わないことだ。大抵、うまい話には落とし穴があるものだ。おいしいものには用心が必要だ。
発がん物質というのは、ほとんど甘い。肉が焦げて褐色になり、おいしそうに見えるものの、発がん物質が多い。
パンの中にも、20種類の発がん物質が存在する。やはり自然のものがいい。地産地消で、近くの農薬のかかっていない自然な季節物を食べるというのが一番だ。
昨年、105歳で亡くなった日野原重明先生のエネルギー摂取量は、一日1300キロカロリーと抑え、しかもよく歩く。エレベーターには乗らない主義で階段をてくてく歩く。
私の故郷である隠岐の島では、ぼけ老人が少ない。坂の多い島では、道の上がり下がりが激しくぼけないらしいのだ。バリアフリーというと、進んでいるように思うかもしれないが、バリアをなくしたら人間というのは早くぼける。ただ長生きするだけでなく、健康長寿こそが一番だ。
冷蔵庫も、成人病を増やした最大の原因だ。
昔、冷蔵庫がなかった時代は、スイカを井戸の水とか山の水に浸して食べたものだ。それぐらいで丁度いい。腸を冷やすほどの温度じゃなかった。
腸には温度センサーがない。だから冷たいものを飲んでも、それを腸が感知する能力がない。腸内細菌は1000兆個ある。腸を冷やすと、そうした細菌が白血球、リンパ球の中に入って体の抵抗力や免疫力を下げてしまう。
「冷えは万病の元」というのは昔から言われていたことだ。
脳外科の手術で麻酔をかけると、常温だと5分しか手術はできない。体を30度に冷やして手術すると、45分の脳外科の手術ができる。
そのままだと、敗血症で死んでしまう。だから脳の手術の時は、下剤かけて腸を大掃除してやる。