改憲勢力優勢 、「9条」で国民の理解を促せ

2017衆院選 国難と選択(下)

 今回国政選挙初登場の希望が、「9条を含めた憲法改正の議論」を公約の3本柱の一つに掲げて大きな一石を投じている。小池代表は「希望の党の存在が、これからの憲法改正に向けた大きなうねりを作る役目を果たしていく」と、改憲の牽引(けんいん)役を務める姿勢を鮮明にする。

 小池・希望の出現が、7月の都議選大敗で求心力を失いかけた安倍晋三首相を解散総選挙に向け奮い立たせ、公約に自衛隊の明記、教育の無償化など4項目の憲法改正を目指すことを明記させたと言っていいだろう。自民党は「国民の理解を得つつ、憲法改正を目指す」と、抽象的な表現にとどめた前回衆院選と比べてかなり踏み込んだ。

 安倍首相は、解散の大義を「国難突破解散」とし、消費税増税分の一部を教育の無償化などに充当し、北朝鮮の核・ミサイル開発に対処することを重要課題に挙げた。少子化による人口減少は国家の存立基盤を危うくする。また、北朝鮮が核・ミサイルを完成させれば恫喝(どうかつ)外交を強行してくることは火を見るよりも明らかだ。公約に9条改正と教育無償化を明記したのは、この国難に国家、国民を挙げて立ち向かうための担保とする狙いがあるからだろう。

 新聞各紙による中盤戦の情勢調査では、自民が単独過半数を獲得する勢いだ。この情勢が最後まで続くと仮定した場合、希望と維新を入れると改憲勢力は3分の2の議席を大きく上回り、5分の4の圧倒的多数となる。希望が善戦すれば、民進の反対を理由に改正論議を渋っていた公明も重い腰を上げざるを得なくなろう。国民の信任を受けた改憲派が圧倒的多数を占めるようになれば、改憲論議の本格始動に弾みがつくことが予想される。

 ただ、焦点の9条をめぐっては改憲勢力の間にも温度差がある。自民は1項、2項はそのままで、3項に自衛隊を明記するとしている。公明は9条改正の緊急性はないとし、希望の小池代表も3項の加憲には疑問を呈する。それでも一致点を見いだすための忌憚(きたん)のない議論は、むしろ国民の理解を促すだろう。

 立憲は「立憲主義」の信奉者を標榜(ひょうぼう)し、「安保法制を前提とした9条の改悪に反対」する。だが、日本国憲法は国民主権を謳(うた)っている。「主権」とは最高権力であり、国民は憲法よりも上位にある。主権者である国民にとって、その生命と財産を守ることは最大の命題だ。必要ならば憲法改正や解釈変更することは当然である。同時に、その生命と財産を守るためには「力」は必要条件だ。ところが、第9条2項は「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」とし、自らを守るための力を放棄している。立憲は、9条をはじめこうした憲法の矛盾や一貫性の欠如を放置するのか。

 国難対処にどの党が望ましいか、有権者の選択が問われている。

(政治部・小松勝彦)