大久保友記乃展の出会い 愛情が育んだ障害者の才能
カールの絵本が啓発
本紙の5月20日付にエリック・カール展の紹介記事があった。そこで同氏の作品に感化された一女性との出会いを思い出した。
4年前の夏、札幌・紀伊國屋書店の2階展示会場で、自閉症の若い女性の七宝焼きの個展が開かれており、たまたま書店めぐりをしていた私は立ち寄ってみた。
彼女の名は大久保友記乃(ゆきの)。和服姿の若い母親が彼女に代わって、友記乃の作品の説明に当たっていた。
出身地が私と同じ旭川市だったので懐かしく思い、狭い会場だったが、しばらく会話を交わし、七宝焼きの色の鮮やかさを褒めた。
数日後、母親から送られてきた友記乃の著作集「不思議少女・友記乃の世界―自閉症のアーティスト」(文芸社)を見て、その中にエリック・カールの絵本を数多くの七宝焼きにして創作していることを知った。
表紙の裏には「いつもありがとう 友記乃より」のサインがしてあり、ページをめくると、七宝焼きの色鮮やかな作品が印象的だった。
その作品名を挙げると、“月曜日はなにたべる?”のカラフルな猫の絵、同じタイトルのペリカンの絵、それにやはり同じタイトルで、7人の子供たちがテーブルを囲んで楽しげな食事の姿があり、そこには車椅子の女の子の姿もあって、エリック・カールのヒューマンな心情も窺(うかが)い知ることができた。
また、別のページには、青と白だけの色彩で、“しろくまくんなにがきこえる?”の3匹のシロクマの姿や、同じタイトルのオレンジ色の背景に、色鮮やかな青い羽根を広げた孔雀が1羽、画面いっぱいに出ていた。
「芸術に国境はない」と言われるが、若い自閉症の女性が幼い頃にエリック・カールの絵本の色の美しさに啓発されて、それを模して七宝焼きにし、新たな自分の芸術の世界を開いてきたのだろう。
送られてきた「不思議少女・友記乃の世界」の後書きには、大久保友記乃の略歴があり、それを見ると既に17歳でモントリオール国際芸術祭の「世界芸術賞」を受賞、さらに、イタリア・ヴェローナの「第4回・驚異と美の饗宴」で「ヴェローナ国際芸術交流賞」を受賞している。
その翌年には地元・旭川市で、「文化奨励賞」を受賞、作品の「オヨヨねこ」が、丸井今井旭川店110周年のキャラクターに決定など、数々の出展に伴い、入選や国際的な受賞を果たしている。
私が、大久保友記乃と札幌の紀伊國屋書店で出会ったのは2013年の7月、当時23歳の彼女は母親の後ろに隠れるようにしながらも、笑顔であいさつをし、後日、サインを入れて本を送ってくれたのだった。
回復に原因の解明を
去る5月21日放送のNHKスペシャル「発達障害~解明される未知の世界~」で、発達障害の俳優の栗原類や若い女性2人がステージ出演し、現れる症状などを尋ねていたが、各々(おのおの)違うようで、未(いま)だに原因等の解明はされていない。
症状は人によってさまざまのようだが、出演者の3人はみな元気で、日常生活を各々の場で仕事をしながら送っている。米国では既に症状回復を果たし、多動性の子供が正常に戻った、という報告もある。日本においても、早期の原因解明が望まれる。
「不思議少女・友記乃の世界」を著した大久保母子の努力は素晴らしく、現代の同世代の自閉症児の光となるだろう。しかし、全ての障害児がこのような理解と愛情が受けられるものでもない。社会的・経済的なサポート、関わる家族の大変な努力、絶大な親の子への愛情がなければ果たし得ないことだ。
(敬称略)