NATOのテロ対策の役割 サイバー戦含め再構築を
早期識別と法執行強化
今月3日のロンドンブリッジでのテロ事件のわずか2週間ほど前、同じく英国のマンチェスターで「イスラム国」(IS)によるテロ爆破事件が起きた。強い指導力を謳(うた)うメイ首相の下ながら、今年既にテロは3回目だ。
ちょうど、トランプ米大統領の中東及び欧州訪問の時期と重なり、米国歌手のコンサート会場で起こったことから、米英両国に対する攻撃とも言えよう。英国は欧州との分断を回避し、国家の安全保障を担保するための厳しい議論を重ね、8日の総選挙を控えた時期でもあった。
英国と米国はこの過激主義にどう立ち向かうのか、北大西洋条約機構(NATO)の枠組みから2点考えられる方策を考察したい。
第一の方策として信頼し得る、実戦の準備が整ったテロ対抗措置かつサイバー戦に備えるために21世紀にあるべきNATOを再構築することだ。
欧州も英国もこの5年間、大半がISの仕業による深刻なテロ攻撃にさらされてきた。皮肉にも歴史上、多くの犠牲、失敗を積み重ねながら、追随を許さない一流のインテリジェンスを確立してきた英国が、テロの連鎖を根絶するに至っていない。確かにこの度のロンドンテロを8分間で食い止めはしたものの、総じて英国並びに欧州が新たなテロに脆い姿をさらしているのは、歴史から学びつつ新たなインテリジェンスが求められていることに他ならない。サイバー情報戦略を含めた自国インテリジェンスのリアセスメントが必要だ。
今後、NATOは既存の戦略と目的を検証するだけではなく、実用的な機能とIT技術に目を向けるのが得策だろう。東西冷戦時代の旧ソビエトを相手に培われたエアランド・バトルとは異なる状況にある。
NATOは旧ソビエトに支持されたドイツ赤軍(RAF、あるいはバーダー・マインホフの名前で活動)に対抗し、1980年代対テロ軍事作戦に従事した。今ひとたび、テロ対策に取り組む時だ。
まず、対テロ協調及び、インテリジェンスの共有、情報交換と活動、つまり、ベストプラクティスを活用するために相互交流の強化を図るテロ対策ユニットの確立が喫緊だ。
これは、米国と英国の情報収集及び特殊部隊ユニット、また、米連邦捜査局(FBI)とロンドン警視庁が協働することにより取り組むべき目標を定めたオンターゲット戦術の特定、技術及び手順の訓練の強化を行うものである。これはサイバー戦にかかる脅威情報の一環でもある。
米国及び英国特殊部隊におけるインテリジェンスの人材交流と最新状況の発見・修正・終了・搾取(F3E)という一連のプロセスの実行だ。
そして、同部隊を活用して攻撃を妨害し、防止するために対テロの早期識別と工作の実行の後押しをする法執行の強化が求められる。
過激派活動挫く情報力
第二の方策として、サイバー、戦略的コミュニケーション、情報操作と戦争の効果的かつ緊密な統合がある。イスラム過激派のメッセージ及び彼らのマーケティング活動を挫く目的だ。
米英両国は共にこのテロの脅威に対峙(たいじ)しなければならない。そしてブレクジットを自国のみならず国際コミュニティーとグローバルな安定に向けて、安全保障を担保するためにも団結した米英戦略を練り直す機会と捉えるべきだろう。手始めとして、NATOの改革は21世紀の安全保障上の課題に対処すべく、また、積極的にISに対抗するのに必要ではなかろうか。
我が国も決してテロの標的の外ではない。自国のインテリジェンス力を育て、他国にも貢献できるだけの情報力を磨くことだ。決してこの一連のテロを他国のことと受け止めるのではなく、我が国に対する警告と受けとめ、情報戦への対応を打ち出すことが賢明だ。