来月9日韓国大統領選 政府間合意は解釈で変わり得る

文候補のブレーン、外交方針で詭弁

 来月9日に迫った韓国大統領選で支持率トップを維持する最大野党「共に民主党」の文在寅候補は、親中朝・反日米の路線で北東アジアの安全保障を揺るがした盧武鉉元大統領の最側近だったことから同様の政策を取ることが予想される中、このほど文氏の外交安保政策のブレーンがその路線を明らかにした。日本との関係ではいわゆる従軍慰安婦問題に固執するあまり関係全体が悪化した朴槿恵前政権の政策を改めるようだ。(ソウル・上田勇実)

日米韓同盟「反中連合」と誤解
安陣営、北に甘い学者ら並ぶ

 盧元政権で政府の外交安保諮問委員などを務め、文氏が前回出馬した2012年大統領選でもブレーンだった延世大学の金基正教授はこのほどソウル外国特派員協会で記者会見し、日韓「慰安婦」合意の再交渉・破棄の可能性について「合意に至った経緯、国民の納得度合いがどうだったのか十分に見直す可能性がある」が、「再交渉を韓日外交関係の入り口に置くことはしないだろう」と語った。

安哲秀氏(左から2人目)、文在寅氏(右から2人目)ら

23日、ソウルで行われた韓国大統領選のテレビ討論会に出席した中道野党「国民の党」の安哲秀元共同代表(左から2人目)、革新系最大野党「共に民主党」の文在寅前代表(右から2人目)ら(EPA=時事)

 これは朴大統領が就任早々、慰安婦問題で日本が“善処”することを大前提に首脳会談などを拒み続け、日韓両国の「嫌韓」「反日」感情が広がっていった弊害をなくそうという意思の表れとみられる。

 これまでにも文氏陣営は日韓関係についてツー・トラックの方針を繰り返し明らかにしてきた。安全保障と歴史認識は別途に扱うべきとする考え方だ。

 ただ、一度決まった政府間合意を蒸し返して再交渉・破棄するという国際的非常識について金教授は「政府間合意には法律的厳格性を重視する文化と合意の正当性がどうだったのか見直す二つの視点がある」と説明し、政府間合意は文化や見方の違いで解釈が変わりうるという詭弁(きべん)を弄(ろう)した。

 一方、北朝鮮との関係については総花的に楽観論に終始した。

 金教授はまず核実験や弾道ミサイル発射など武力挑発を繰り返す北朝鮮の脅威について「これを効果的に管理できなかった過去10年間の保守政権はあまり成功しなかった」として李明博・朴両政権の対北強硬路線を批判。その上で、①南北対話再開により軍事的対立を緩和②南北関係を柔軟にさせ米中日露との三角外交を推進③北朝鮮を韓国経済を活性化させる市場と見なすべき――という三つの方向性を示した。

文在寅氏(左)と安哲秀氏

19日、ソウルで、韓国大統領選の主要候補によるテレビ討論会に臨む文在寅氏(左)と安哲秀氏(AFP=時事)

 会見では明らかにしなかったが、仮に文候補が当選した場合、北朝鮮の最高指導者・金正恩朝鮮労働党委員長との南北首脳会談にも当然、意欲を示すものとみられる。文氏自身、就任したらまず平壌を訪問したいと述べている。

 北朝鮮側も過去2度の首脳会談でいずれも韓国側から巨額の経済支援などを取り付けており、国際的な経済制裁の締め付けに遭う北朝鮮としては韓国を外貨稼ぎの源と見なしている可能性は十分ある。

 経済協力や交流、民族や平和などの言葉が踊り、上辺だけの南北融和に浸った金大中・盧元両政権の時代に「後戻り」する公算が強いと言えよう。

 北朝鮮の脅威と関連し金教授は「韓米日3カ国安保協力は必要だが、韓米日軍事同盟という言葉は反中軍事連合と誤解されかねない」「(北ミサイル迎撃用の)高高度ミサイル防衛(THAAD)見直し問題で米中どちらを選ぶのか、安保と経済のどちらが大事かという二分法的質問は政策の助けにならない」と述べ、煮え切らなさを残した。

 さて、選挙戦も中盤に差し掛かるが、文氏と支持率で競り合っている第2野党「国民の党」の安哲秀候補の外交安保ブレーンを見ると、元駐日大使の崔相龍・高麗大学名誉教授を筆頭に対北融和論者で知られる金根植・慶南大学教授など左派系学者がズラリと並び、こちらも「北朝鮮に甘い」政策が予想される。

 ただ、安候補は日ごろから安全保障の重要性を強調しており、ブレーンにも元米韓連合司令部副司令官を起用している。

 日韓関係では文候補同様に再交渉を支持。これも文氏と共通しているが、1998年に小渕恵三首相と金大中大統領が結んだ日韓パートナーシップ宣言の精神で日韓の懸案を解決すべきとの考えだ。

 左派系候補たちの優勢が続く韓国大統領選の行方はその結果いかんにかかわらず日本の対韓外交は、少なからぬ修正・見直しを余儀なくされそうだ。