風景変われば生物の多種多様性が減少
中央大学理工学部の研究員・須田真一氏が講演
東京都立石神井公園周辺は武蔵野三大湧水の一つである三宝寺池を中心に多種多様な生物が生息する地域だった。しかし、近年の急激な都市化で生き物の生息環境、種類と個体数が激減してきた。中央大学理工学部保全生態学研究室の須田真一専任研究員は井の頭自然文化園動物園の彫刻館Bで「風景が変わると生きものはどう変わるのか~石神井公園のまわりのトンボ・チョウを中心として~」と題して100人の来場者を前に語った。
石神井公園周辺のチョウ・トンボを観察
「誰にでも分かる数値を示し、荒れた自然を回復するにはどうしたら良いか」
須田真一氏らの研究グループは湧水のある三宝寺池、その流れをせき止めて作った石神井池を中心にした地域で過去(1930年代)と比較可能な現在(1980年代)の生態系・ランドスケープ(風景・景観の広がり、地理情報システムを使用)と生物相(対象分類群・植物、哺乳類、鳥類、両性・爬虫〈はちゅう〉類、チョウ・トンボ類の昆虫)を比較し、異なる時間断面で見た種多様性の違いと、その変化要因を比較検討し、データベース化、どうしたら、荒れた自然を回復させることができるか、研究を続けている。
さまざまな数式、図表、を示しながら、過去と現在を比較すると、ランドスケープ要素で最も減少したのは水路と遊水地で、水田を含めた湿地も大きく減少している。これらの低湿地の要素消滅が多種多様性衰退の最大の要因となっている。一方、種群が増えたものは生息環境の規模縮小の影響が相対的に低かったといえる。昆虫類では草地性チョウ類と湿地性トンボ類が該当する。質的劣化は著しいものの、三宝寺池沼沢植物群落が天然記念物として保全された効果が表れたもののようだ。
生息地としてのランドスケープ要素が一定の規模以下になると、生息地として機能する規模以上で生態系の多様性を確保することが必要となる。実際の保全・再生に生かすには現実に再生可能な種と生態系を選択して、段階的に再生を図る必要がある。
須田氏は「何でもかんでも、自然環境を改善すれば、良いかというと、そうでもない。こちらに良かれと思って増やすと、あらぬところで悪影響が出てしまう。自然環境に手を加える場合は調査し、考察して進めなければならない」と語り「他のものの生息環境が閉ざされ、全体が調和して成長・増殖するということは非常に難しい」と訴えた。
生息地域が小さいから、周りの土地を買い取って、広大な森林地帯にしましょう、といっても不可能だ。湧き水が大事ということが分かったから、湧き水を増やしましょう、といっても難しい。何が、どこまでできるか、予算・人材・時間のことも考え、無理なことは諦めるというのではないが、今すぐというのではなく、将来の希望・課題としておくことも必要。限られた予算・時間・能力で一度にすべてを成すことはできない。階段を一歩一歩上るように、できることからコツコツと、積み重ねることが必要だ。