今なぜ「敵基地攻撃」か? 小野寺五典氏

インタビューfocus

反撃能力が北の攻撃抑止

自民党政調会長代理・元防衛相 小野寺五典氏

 核・ミサイル開発に血眼の北朝鮮に対し、トランプ米大統領は軍事力の行使をも示唆、日本を取り巻く安全保障環境は一気に緊張の度を増している。そんな中、自民党は「敵基地反撃能力」の保有を求める提言を政府に提出した。論議を主導した同党政調会長代理の小野寺五典・元防衛相に提言の趣旨や日米同盟のあり方を聞いた。(聞き手=政治部・小松勝彦)

トランプ米大統領は北朝鮮の核・ミサイル開発に関して、習近平主席に「中国が協力しなければ、軍事力行使を含めた独自の行動を取る」と通告した。トランプ氏は本気で軍事力の行使を考えているとみるか。

小野寺五典氏

 おのでら・いつのり 昭和35年宮城県生まれ。昭和58年、東京水産大卒。平成5年、東京大学大学院修了。8年、東北福祉大助教授。9年、衆議院初当選。現在、6期目。外務副大臣、自民党副幹事長、防衛大臣を歴任。

 北朝鮮が米国の直接的脅威になれば軍事行動を取ると思う。シリアへの巡航ミサイルによる攻撃は、米国の設定するレッドラインを越えた場合には、武力攻撃も排除しないという姿勢を明確にしたもので、同様に北朝鮮に対しても、自衛権の範囲で軍事行動を取るという決意を示したものだと思う。オーストラリアに向かう予定だった原子力空母「カール・ビンソン」を急遽(きゅうきょ)朝鮮半島に向け針路を変更させたのも、北朝鮮に対する強いメッセージを言葉だけでなく行動で示したものだ。

こうした米国の姿勢に北朝鮮は今後どういう反応を示すと予想するか。

 それをわれわれも情報収集・分析をしているところだが、北朝鮮がおとなしくしているならば、米国の牽制(けんせい)がかなり効いていると思うし、それでもなお核・ミサイルの実験を繰り返すようならば一気に緊張が高まるだろう。

米朝間の緊張が高まる中、敵基地攻撃能力を保有する意味は何か。

 今回のわれわれの提言は、まず迎撃能力を向上させようというのが基本だ。今の日本のミサイル防衛はイージス艦、PAC3で対応しているが、これだけでは完全に対応するのは難しい。それに、相手国がミサイルを1発撃ってくればそれを迎撃し、2発目、3発目は撃たせないようにしなければならない。そのための能力の一つとして反撃能力を持つ必要があるというものだ。

 ――自衛隊の弾道ミサイル撃墜能力は非常に高いが、それでも北朝鮮が核弾頭を搭載できるようになれば、たとえ1発目だとしても大きなリスクがある。

 それはひしひしと感じている。だから今、反撃、打撃能力は米軍が担うということになっているが、日米が重層的に協力するために日本も反撃能力を持つということだ。

 ――敵基地攻撃能力の保有は「専守防衛の枠を外れる」との反対意見もあるが。

 私は専守防衛の範囲だと思う。以前であれば、日本の防衛は爆撃機や軍艦による攻撃を想定していたが、今は相手の領土から十数分でミサイルが到達するという時代だ。だから、相手の領土にあるミサイルをたたかないと日本を守れない。つまり、われわれが専守防衛という考え方を変えたのではなく、攻撃の技術、形態が変わったのであって、それに合わせた形の反撃は自衛の範囲だと考えるべきだ。

移動する策源地の攻撃は非常に困難だと言われているが、自衛隊がこれを撃破する能力を持てるのだろうか。

 この問題に正面から反対できない人が、そういう論調でよく反対の声を挙げるが、現実問題として、米軍ですら移動式ランチャーを見つけて攻撃することは難しい。しかし、北朝鮮としては、今の日本は攻撃しても反撃してこないから撃ち放題だが、もし大量のミサイルで反撃されると分かっていたら攻撃をためらうので、全部の発射基地を撃破できなくても抑止力は格段に増すわけだ。それにミサイルランチャーだけでなく、核の貯蔵施設やミサイルの補給基地など、相手の力をそぐための攻撃目標はいろいろある。

日米軸に力の空白防げ

米国は、日本が敵基地攻撃に関わることをどう考えているのだろうか。

 実はまだ、日本でこの能力を現実に持つことを考えたことがないので、米国の意向を誰も聞いたことがないのだ。政府は、自民党の提言として、初めて米側に打診することになるだろう。

日米ガイドラインでは、日本が他国から攻撃を受けた場合、自衛隊が主体的に対応し、米軍はこれを支援、補完するとしており、弾道ミサイル防衛についても同様ではないか。

 弾道ミサイル防衛の日米協力の在り方を詰め切っていないとすれば、今回の提言が、議論をするいい機会になると思う。これまでは米軍の反撃力で十分抑止になったが、北朝鮮の核・ミサイル戦力がここまで高まった今、自衛隊の態勢をどうすべきかということを真剣に考える時だ。

トランプ政権下における日米同盟はどうあるべきか。

 日本を取り巻く安全保障上の緊張感が非常に高まっている。北朝鮮という新たな脅威が現れ、中国も空母を含めて軍事力を増強している。ロシアも極東の軍事力をかなり増強している。日本の周辺国が脅威、懸念のレベルを上げてきているわけだ。

 紛争というのは力の空白ができた時に起きる。逆に言えば、力の空白を生まなければ紛争は予防できるということだ。日米同盟を軸とし、英国、フランス、オーストラリアなどの国々と連携して、以前より増強した抑止力を働かせて、アジア太平洋地域を安定させなければならない。