自衛隊駆け付け警護 「交戦権否認」正す改憲を

南スーダンに第11次隊

 ようやく再開された衆参両院の憲法審査会は不毛な論議の繰り返しとなった。民進党らは安保関連法や自民党憲法改正草案を取り上げて政権批判に終始し、徒(いたず)らに時間を空費しただけで憲法改正項目の絞り込みすらもできぬまま越年となるようだ。

 民進党は「国防軍」の保持などを明記した自民党の憲法改正草案の撤回を求めているが、現行憲法9条の瑕疵(かし)については既に本欄で縷述(るじゅつ)したので割愛する。ただ、「交戦権の否認」についてはどうしても正さねばならぬとだけ述べておく。独立国家ならば独立と平和を保ち、国民の安全を確保するための軍隊を保有することは当たり前のことであって世界の常識である。

 「国防軍」という名称がいけない。ならば「自衛軍」でどうかという意見もあるが、「自衛軍」を英訳すると「セルフディフェンスフォース」となり、これでは現在の「自衛隊」と同じ名称になってしまう。そもそも「セルフディフェンス…」などという名称がついた軍隊は世界中どこにもない。海外で自衛隊のことを「セルフディフェンスフォース」と訳して言うと、自分自身を守るだけの何とも奇妙で身勝手な「自己防衛軍」と誤解されてしまうのである。それは皮肉にも交戦権を持たない自衛隊の実態を如実に言い表すことにもなってしまうのだ。

 さて、この憲法審査会の再開と丁度重なるように先月18日、稲田防衛相は南スーダンの国連平和維持活動に派遣する陸自部隊に、「駆け付け警護」と「宿営地の共同防護」の新任務を与える命令を出した。

 これを受けて第11次隊の第9師団の施設(工兵)部隊約350人が順次、南スーダンへと出発。今月12日から新任務の遂行が可能となる。出発前の壮行会で田中仁朗隊長は「しっかりと訓練してきたので何の不安もない。あらゆる任務を完遂して帰国したい」と殊勝な決意を語った。果たして本心であろうか。

 政府発表の「新任務に関する基本的な考え方」を瞥見(べっけん)するだけでも、あまりにも楽観し過ぎで無責任ではないかと言わざるを得ないのだ。

 「派遣しているのは施設部隊であり、治安維持は任務ではなく、駆け付け警護は応急的かつ一時的な措置としてその能力の範囲内で行うものである。自衛隊は自己防衛のための能力を有するだけであり、あくまでもその能力の範囲で可能な対応を行うものである」(一部抜粋)としているのである。

続く現実からの乖離

 そして首相官邸HPの新任務の解説では、「自衛隊による武器の使用は武装勢力などに対し、真に必要な場合には警告用に行われるもので、危害を与える射撃が許されるのは正当防衛または緊急避難の場合に限られており、紛争を起こすような武器の使用は認められない」として、交戦権を持たない自衛隊には敵兵を殺傷する戦闘行為が認められていないのだ。

 さらに「隊員の安全確保のために十分な装備を携行し、派遣前に適切な訓練を行う」とあるが、膨大な兵器が氾濫する紛争地に赴くのに、自衛隊の装備は拳銃、小銃、軽機関銃といった小火器だけである。また第一線の戦闘職種でない施設科隊員に2カ月間の訓練を実施したというが、これで生命の危険下、極限状態に陥った状況で駆け付け警護の任務が果たせるのであろうか。もともと交戦権のない自衛隊に軍隊と同じような任務を与えるのは無理なのだ。憲法を改正してから行うべきであろう。

 憲法審査会の現実から乖離(かいり)した不毛な議論がこのまま来年も荏苒(じんぜん)として続くのか。まことに深憂に堪えない。