日韓関係、「過去」乗り越え防衛協力を

2016 世界はどう動く-識者に聞く(20)

笹川平和財団米国研究員 ジェフリー・ホーナン氏(下)

慰安婦問題をめぐる日韓合意をどう見る。

ジェフリー・ホーナン氏

 ポジティブな進展だ。だが、これが本当に問題解決につながるかについては懐疑的だ。

 1993年の河野洋平官房長官談話と95年のアジア女性基金の設立は、韓国側と協議せず、日本が独自に行った。つまり、一方通行だった。だが、今回は日韓両政府が協議し、合意した。2国間合意であることは極めて重要だ。これは過去になかったものだ。

 自民党の保守派はこれまで、河野談話、村山富市首相談話を批判してきた。河野、村山両氏はリベラル派であり、我々は談話を受け入れないと。だが、今回は過去の談話に最も批判的だった安倍晋三首相が合意したため、保守派も攻撃するのが難しい。これは重要なことだ。

 だが、日韓両政府は合意に達したものの、慰安婦が協議や合意に関わったわけではない。支援団体は韓国政府が慰安婦を売り渡したと批判している。慰安婦が合意に不満を抱く限り、合意が存続するかどうか疑わしい。

 今回の合意は不可逆的と言われているが、合意の文言は、一方が相手の対応を不誠実だと判断すれば、合意を放棄することができる、私にはそう読み取れる。98年に小渕恵三首相と金大中大統領が未来志向の関係を発展させることで合意したが、次の盧武鉉大統領はこれを白紙に戻してしまった。今回の合意についても、韓国の野党は再交渉を主張している。

 また、日本政府は在韓日本大使館前の慰安婦像撤去を資金拠出の前提としているとの報道があるが、韓国政府に像を撤去する権限はない。日本が資金拠出を像撤去と結び付けているなら、自ら問題を招いているようなものだ。

安全保障の観点から見た日韓関係の重要性は。

 とてつもなく重要だ。米国にとって日韓は極めて能力の高い同盟国だが、両国は軍事情報を共有できなければ、ミサイル防衛(MD)で協力もできない、北朝鮮・中国について共通の戦略ビジョンを持つこともできずにいる。

 北朝鮮の脅威について韓国人と議論する時、いつも耳にするのは、韓国に自衛隊は来てほしくない、という主張だ。議論はそこで終わってしまう。だが、韓半島有事が起きた時、日本の協力・支援は不可欠だ。

 日韓が慰安婦問題を後ろに置き、関係を改善できるなら、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を締結し、MD協力で合意し、北朝鮮・中国について戦略協議を始めるチャンスが生まれる。日韓が共通の脅威について話し合い、戦略ビジョンを共有できるなら、それは地域にとっても、米国にとっても有益だ。

11月の米大統領選の結果は、米国の対アジア・対日政策にどのような影響を及ぼすだろうか。

 米国のアジア政策はトルーマン大統領以来、党派を超えて一貫してきた。従って、ヒラリー・クリントン前国務長官(民主党)、マルコ・ルビオ上院議員(共和党)、さらにはテッド・クルーズ上院議員(同)が大統領になっても、アジア政策は変わらないだろう。

 クリントン政権誕生なら、(知日派の)カート・キャンベル前国務次官補が国務長官になる可能性がある。共和党政権が誕生しても、リバランス政策は名称が変わる可能性があるものの、維持されるだろう。

 だが、ドナルド・トランプ氏(共和党)が大統領になった場合はどうなるか分からない。発言を聞く限り、トランプ氏の対日観は80年代のままのようだ。日本は米国を倒そうとしている競争相手であると。残念ながら、トランプ氏が大統領になる可能性は現実味を帯び始めている。

(聞き手=ワシントン・早川俊行)