宗教教育は人格形成の根幹

「北海道人格教育協議会」が札幌市でフォーラムを開催

 小中学校での道徳教育の特別教科化や教育委員会制度の見直しなどが進められている。その一方で、いじめや青少年の凶悪犯罪が後を絶たない。戦後70年の日本の教育を根底から改革すべき時期にきているという意見がある中で、札幌の民間教育団体がこのほど、人格教育についてのフォーラムを開催した。(札幌支局・湯朝 肇)

教師に求められる宗教的情操

宗教教育は人格形成の根幹

札幌市で開かれた人格教育フォーラム=2月14日

 「改めて日本の教育を振り返ってみたとき、果たして私たちが心の底から満足できる教育内容になっているでしょうか」

 2月14日、札幌市内で開かれた北海道人格教育協議会(会長、山谷敬三郎・北翔大学教授)主催の「第一回人格教育フォーラム」で、講師の加藤隆・名寄市立大学教授はこう切り出し、現在の社会風潮が本来的な人間教育を阻害していると強調した。

 加藤教授は、現代の社会風潮について、①すべてをビジネスにした社会で、金で解決する、それ以上の価値を見出さない②語るべき確信・哲学を持たず、また持つことができない③大学は真理探究の場からは程遠く、単に資格や就職に重きを置いている④社会全体が“祭り化”“劇場化”されている――と指摘した。

 また、内村鑑三の言葉を引用し「日本が滅ぶとしたら、科学、芸術、富、愛国心の欠如からではなく、人間の真の価値についての認識、崇高な法の精神の感覚、人生の基本的原則に関する信念の欠如からである」と語り、精神的価値観を重要視しない現代社会のままでは将来、存亡の危機感に陥る、と訴える。

宗教教育は人格形成の根幹

フォーラムで講演する加藤隆・名寄市立大学教授

 さらに、こうした社会風潮を形成した要因として、加藤教授は戦後教育の歪みを挙げる。「戦後の日本の教育の方向性を決めた教育基本法を通じて、教育の根幹ともいうべき人格を形成するために必要な宗教的教育に対して、教育界は真摯に取り組んでこなかった」と断言。その上で、同教授は『夜と霧』の著者で心理学者のV・フランクルを紹介し、「フランクルは、『われわれが人生の意味を問うのではなく、われわれ自身が問われている者』と述べているが、それは“自分が”という自己ではなく、与えられた命、他の存在から見た自己を見つめることを通して自己の“生き方”に意味を感じ取っていった。そうした人の命、人間の生き方を教えることは、突き詰めれば宗教的な教育に繋がっていく」と述べた。

 そして、「札幌農学校のクラーク博士は単にキリスト教を広めたのではなく、彼の人格、生き方が後の新渡戸稲造や内村鑑三などに受け継がれていった。今の日本の教育界に必要なことは、そうした精神的感化(宗教性)を広げる土壌をつくることだ」と力説した。

 このフォーラムには、道内選出の国会議員や小中学校の教師や教育関係者など約70人が参加。講演後の質疑応答では、海外青年協力隊の活動に携わる湊和生さんが、「海外で活動する際に、現地の宗教を知らずに赴いた場合、非常に苦労することがあるという人が意外に多い。日本の学校ではそうした世界の各宗教について詳しく教える機会があるのか」と疑問を投げかけた。

 長年にわたり小中学校、大学で教鞭を取った荻野忠則氏は「公立学校では、一つの宗教・宗派の教義を特定して教えることはできないが、宗教的情操教育を施すことは禁じられていない。むしろ、これからの教育に必要なのが宗教的情操で、何よりも一人ひとりの教師に、生徒に教えられるだけの宗教的情操についての教養と素養が求められる」と述べるなど、宗教的教育を求める声が相次いだ。

 北海道人格協議会は、昨年10月に発足。大学教授や現役教師で構成され、これまで定期的に勉強会やセミナーを展開してきた。今回のフォーラムで山谷会長は、「子供たちが親や身内、友人を殺す。また、いじめ問題が後を絶たない。インターネットの普及で子供たちが大人の手の届かない別な世界に向かっているようだ。我々は、教育を通してもう一度人間らしい社会を築いていくことに力を注ぐべきで、そのために努力していきたい」と語った。同協議会として今後も「生命への畏敬」「宗教的教育の重要性」などをテーマにフォーラムを開催する予定という。