日本薬物対策協会、薬物乱用防止で教師向け研修
危険性と共に人生考えさせる
脱法ドラッグの呼称が「危険ドラッグ」になってから2カ月。危険ドラッグを吸引して交通事故を起こしたり、体調が悪くなって緊急搬送されるケースが後を絶たない中、薬物乱用防止についての教育・啓発の重要性が改めて認識されている。先月、大阪と東京で行われた「薬物乱用防止教育研修会」は、具体的な指導案などが提示され、参加した教師らから好評を博した。(森田清策)
指導案も提示、好評を博す
この研修会を主催したのは生徒や教育者、保護者らを対象に講演会などを行っている「日本薬物対策協会」。先月6日に大阪で開いた研修会には約30人、20日に東京・池袋での研修会には約40人が参加した。その多くは学校の教師だ。
大阪では、同協会の関係者のほか、元麻薬取締官や現役の高校教師が講師となり、危険ドラッグをはじめ薬物問題の概要や学校における教育のポイントなどを提示した。その中で、高校教師で同協会大阪支部長、千地雅行さんは「教員であればほぼ毎日、子供と顔を合わせ、たとえわずかな時間でも言葉を交わすことができる。この些細(ささい)なことの積み重ねが重要な意味を持つ」と、生徒との信頼関係構築の重要性を指摘した。また、薬物の危険性をどのように伝えるかについても具体的に提案した。
同協会の世話役・馬崎奈央さんは「薬物乱用防止教育は、数学や英語などの教科と違い、正しい知識を与えれば十分かというと、そうではありません。いかに薬物に手を染めない、生き生きとした人生をおくるかという生き方の教育でもあります」と強調する。
同協会が昨年、首都圏の中高生5229人を対象に行った調査によると、危険ドラッグ(当時は脱法ドラッグ)について「聞いたことがない」と答えたのは17%で、多くはテレビ・新聞などを通じて知っていた。また、78%は「所持や使用は悪いこと」と答えたが、「個人の問題、判断は自由」とした生徒も11%いた。
東京・池袋での研修会では、教育新聞編集局次長の池田康文さんが学習指導要領においては、保健の分野で取り扱うとされていることなど学校教育での乱用防止教育について説明した。また、元警察職員で同協会講師の上部美智子さんが画像を使いながら、生徒の心に響く効果的なモデル授業を発表した。
上部さんのデモンストレーションでとくに注目を集めたのが、参加者によるロールプレイ。中学生がコンビニ前で先輩から危険ドラッグを勧められるという設定で、その誘惑をどう断ち切るかを考え、学校での授業のヒントを得る狙いがある。
薬物乱用防止教育を行う教師の悩みについて、馬崎さんは「良い教材や資料を入手するのが難しいという声をよく聞きます」と語る。このため、研修会では、同協会が作成した防止教育指導案が参加者に配布された。①講演形式②DVDや小冊子を活用した形式③劇やグループディスカッションを活用した形式の3種類の実践パターンだ。
講演形式では、薬物乱用は違法であることを伝えるだけでなく、「体と心に悪影響を及ぼし、人生を破壊する」、さらには「個人だけでなく家族や社会も破壊する」ことを理解させることが大切と指摘している。
このほか、研修会では、東映教育映像部が製作したDVD「ドラッグの悲劇」を上映した。受験を控えた生徒が「違法じゃない」「ハーブだから安全」という先輩の勧めで手を染めてしまい、結局は閉鎖病棟に入院することになるというドラマを通じて、危険ドラッグが恐ろしさを伝える内容。薬物乱用を自分の問題として考えられない生徒に、その危険性を考えさせる上で効果的な教材の一つとなっている。
参加者からは「危険ドラッグについて詳しく知り、かなりショックを受けました」(中学校教員)、「DVDや指導教材を提示していただき、実りある研究でした。ぜひ現場で活用していきたい」(中学校養護教諭)などの感想が寄せられた。







