ウクライナ東部ウクライナドネツク州の親露派の編入要請、露は応じず

 ウクライナ東部ドネツク州で自治権拡大を問う住民投票を強行した親ロシア派勢力は、自治権拡大への賛成が9割に達したとしてロシアに編入要請を行った。ロシア政府は住民投票を「尊重」するとしたものの編入要請には応じていない。ウクライナ暫定政府と親露派の駆け引きの中で、ウクライナの連邦化を実現する構えとみられる。(モスクワ支局)

連邦制導入への駆け引きが本格化か

進むクリミアの「ロシア化」

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9日、ウクライナ南部クリミア半島のセバストポリで演説
するプーチン・ロシア大統領(AFP時事)

 ウクライナ東部で行政府などを占拠する親露派武装勢力に対し、これを強制排除しようとする暫定政府の「対テロ作戦」が展開し緊迫した情勢が続く中の5月9日、モスクワの赤の広場では対独戦勝記念日の軍事パレードが大々的に行われた。

 政治信条を問わずロシア国民全体が熱狂する対独戦勝記念日は今年で69回を数えるが、今回の式典の“主役”となったのは、他でもないクリミアである。独ソ戦のさなかの1944年春、ソ連はナチス・ドイツからクリミアを奪還した。そのクリミア解放70周年にあたるのが今回の戦勝記念日である。

 ロシアはウクライナ暫定政権を「ネオナチ」と呼ぶ。プーチン大統領は戦勝記念日の演説で、ナチスドイツを打倒した祖国の栄光を改めて誇示した。ロシアがクリミアを再び「ネオナチ」―すなわちナチスから“解放”し編入したことで大いに高まったロシア人の愛国心は、この解放70周年と重なった戦勝記念日に激しく高揚した。

 そのクライマックスとなったのが、プーチン大統領とショイグ国防相の突然のクリミア訪問だ。赤の広場で軍事パレードを観閲した後、クリミア半島のセバストーポリを訪問したプーチン大統領とショイグ国防相は、ロシア黒海艦隊の式典に参加した。その後の記念コンサートで行われたプーチン大統領の演説は、集まった人々を熱狂させた。

 「われわれはすべての国家、すべての民族、そして彼らの正当な利益を尊重する。だからすべての人々が、歴史的正義の回復と民族自決の権利を含む、われわらの正当な利益を尊重するよう要請する――」

 このプーチン大統領らのクリミア訪問に対し、ウクライナや欧米は強く反発した。ウクライナ外務省は正式に抗議し、ウクライナのティモシェンコ元首相は、プーチン大統領のクリミア訪問は「侵略行為」だと激しく非難。米国も「扇動であり不適切な行為だ」と批判している。欧州連合(EU)は「第二次大戦での数百万人の犠牲者を悼む重要な日を、不法なクリミア併合を宣伝する場とすべきではない」と遺憾の意を表明した。

 もっとも、クリミアの「ロシア化」は急速に進展している。現在クリミアで使用されているウクライナの通貨グリブナに代わり、今年7月にもロシアの通貨ルーブルを導入する構えだ。また、クリミア半島のアゾフ海沿岸の港湾強化など、クリミアのインフラ整備を推進する。これらの整備に多額の国費を投入するため、ロシア国内の別のプロジェクトを延期するとの見方もある。

 クリミアへの熱意に比べ、5月11日に住民投票を強行し、ロシアへの編入を要請したウクライナ東部ドネツク州の親ロシア派「ドネツク人民共和国」に対するロシアの姿勢は、一歩引いたものとなっている。親ロシア派の民意は「尊重」するとしながらも、住民投票の合法性には触れず、編入要請にも回答は与えていない。

 ロシアにとって、クリミアだけでも財政的な負担は大きい。以前はロシアに属し、多くの血を流してトルコから勝ち取り、ドイツから取り戻したクリミアと、ウクライナ東部は別物である。ウクライナを欧米との間の緩衝地帯とし、ロシアが影響力を確保するためには、ウクライナへの連邦制導入により、親露派住民の多い東部地域の自治権を拡大させることが望ましい。連邦制導入のためにはウクライナ暫定政府を牽制(けんせい)し、東部地域の親露派住民と対話させる必要がある。さらなる混乱の拡大は避けたいところだ。

 ロシアはウクライナの暫定政権を非合法とみなしており、大統領選を行う前に同国憲法を修正し東部地域などの自治権を拡大するよう要求している。もっともロシアのナルイシキン下院議長はロシアのテレビ局のインタビューで、個人的見解と断りながらも、「25日に大統領選が行われたとして、そこで選出される新大統領の正統性には疑問符がつくが、大統領選を行わないわけにもいかない」と述べ、大統領選は予定通り行うべきとの考えを示した。

 これは暫定政権側と、親露派住民の双方に向けたシグナルであり、今後、連邦制導入をめぐる駆け引きが本格化していくとみられている。