韓国外交 米中の狭間で最大岐路に

中国牽制の枠組み本格始動
否定的な文政権、参加促す保守派

 北東アジアの安全保障に北朝鮮と共に最大の脅威となっている中国を牽制(けんせい)するため、日本、米国、オーストラリア、インドの4カ国による対話の枠組み、通称クアッドが初の首脳会談を開催し、活動を本格化させた。これまで米国と中国の狭間(はざま)で曖昧な姿勢を取ってきた韓国外交は最大の岐路に立たされた形だが、文在寅政権はクアッド参加に否定的。国内保守派は危機感を募らせている。
(ソウル・上田勇実)

バイデン米政権、選択を迫るか

 「日米豪印4カ国を新たなステージに引き上げた」

 12日、テレビ会議方式で開かれた初のクアッド首脳会談を終え、菅義偉首相はこう述べた。力による現状変更の試みを各地で行う中国の覇権主義に反発する各国が、中国との対立激化に慎重な一部の国もあるとはいえ、首脳レベルで利害一致と結束を確認した意義の大きさを評価したものだ。

文在寅大統領(EPA時事)

文在寅大統領(EPA時事)

 中国がクアッドに反発するのは当然のこととして、それ以外にこの枠組みが強化されることで困惑しているのが実は韓国だ。

 経済的な結び付きが大きく、朝鮮半島の平和定着に向け協力が欠かせない中国との関係を重視する文政権は「安保では米国重視、経済では中国重視」という姿勢を崩さず、米中いずれか一方を選択することを極力避けてきた。事実上、中国牽制を旗印に掲げるクアッドは文政権にとって厄介だとすら言える。

 米国はクアッドに韓国やベトナムを加える「クアッド・プラス」を想定していると言われるが、韓国参加に文政権は否定的だ。

 昨年9月、当時の康京和外相はクアッドについて「他国の利益を自動的に排除するいかなるものもいいアイデアとは思わない」と述べた。また後任の鄭義溶外相も「透明で開放的で抱擁的かつ国際規範を順守するなら、どんな地域協力や構想にも積極的に協力できる」と語った。表向きには「条件付き参加を示唆した」(韓国メディア)ものだが、実現できそうもない条件を付けて断ったというのが本音だろう。

12日、米ホワイトハウスでテレビ会談に臨む日米豪印4カ国首脳(UPI)

12日、米ホワイトハウスでテレビ会談に臨む日米豪印4カ国首脳(UPI)

 中国の顔色をうかがうかのごとき文政権の姿勢に国内保守派は「国益を損ねる」として危機感を募らせている。外交・安保担当の元政府高官はこう指摘する。

 「韓国にとって米国との同盟は生存と安全の問題だが、中国との経済協力はより多く稼ぐか否かの問題。二者択一を迫られたら生存と安全が優先されるのは自明の理ではないか。クアッドへの不参加は北朝鮮の核問題に対する米国との協力の幅を狭め、両国関係の未来にも決定的な悪影響を及ぼす」

 一部保守派は、韓国が当初、クアッドの枠組みに入らなかったのは「米国が韓国を受け入れなかったから」とみている。反米・反日、親北・親中路線の文政権に対し枠組み参加を打診するのをためらった可能性があるというのだ。

 バイデン米政権発足後、初めての米韓両国の外務・国防閣僚協議(2プラス2)が今週、5年ぶりにソウルで開かれる。米国側にとっては文政権がクアッド参加を本当に拒否するのか見極める場にもなりそうだ。仮に文政権が曖昧な態度に終始した場合、いずれ「米国か中国か」の選択を迫る可能性も排除できない。

 文政権になって以降、露骨に政府擁護色を強めるある政府系シンクタンクは最近、さまざまなレポートで米中いずれかを選択しない韓国の曖昧路線の正当性を理論付けしている。

 中には「米中激突を緩和するには日本に接近すべし」と説くものもある。「米国は日本、中国はロシアとの同盟や提携を強化することで有利な立場に立とうとするだろうが、そうなれば陣営構造が固まってしまう。韓国はそれを緩和させるために日本、ロシアとの連帯を強めるべきだ」と訴えているのだ。

 韓国外交にとって運命の瞬間が近づいているという指摘もある中、文政権周辺にそうした緊張感は漂っていないようだ。