テロ阻止に全力のロシア、最高レベルの警戒態勢

ソチ五輪まで2週間

 ソチ五輪まで2週間となる中、ロシアのプーチン政権はソチを中心に最高レベルの警戒態勢を敷き、安全確保に全力を注いでいる。一方でロシア南部で12月末に起きた連続自爆テロについて、ロシア北カフカス地方の武装勢力が19日、その関与を認め、ソチ五輪を狙ったさらなる攻撃を予告するなど、緊張も高まっている。
(モスクワ支局)

イスラム武装勢力はさらなる攻撃を予告

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3日、ロシア ソチ五輪まで2週間 ロシア・ソチ冬季五輪のスキー競技会場を視察するプーチン大統領(AFP=時事)

 2月7日のソチ冬季五輪開幕を前に、ロシアのプーチン大統領は19日、内外テレビ局などの会見で「参加者や観客らの安全を守ること々の任務であり、そのためにあらゆる手段を取る」と強調した。

 プーチン大統領は昨年12月31日、新年を迎えるにあたっての国民向け記者会見でも、「テロリストを根絶する」と宣言し、ソチ五輪に向けた治安の確保に全力を挙げる姿勢を示している。

 プーチン大統領が何度も五輪の安全確保に言及するのは、ソチが位置するロシア南部の治安悪化が背景にある。先月29、30両日、ロシア南部のボルゴグラードで連日の自爆テロが発生し、31人が犠牲となった。ボルゴグラードでは昨年10月にも走行中のバスで爆弾が爆発し6人が死亡するなど、3カ月の間に3件の爆弾テロに見舞われている。

 ロシアからの独立を目指す北カフカスの武装勢力「カフカス首長国」のリーダー、ドク・ウマロフ司令官は昨年7月、ソチ冬季五輪の阻止に向け、一般市民を標的とした闘争を再開すると宣言した。

 ウマロフ司令官については、チェチェン共和国のカディロフ大統領が「99%の確率で死亡している」と述べるなど、死亡説が流れている。ウマロフ司令官はボルゴグラードの連続自爆テロに対する犯行声明は出しておらず、自爆テロとの関連は不明のままだ。また、北カフカスではウマロフ司令官傘下の武装勢力以外にも、複数の武装勢力が活動を行っている。

 一方、今月19日、イラクのイスラム武装勢力との関係が指摘されるロシア・ダゲスタンのイスラム武装勢力「ビヤラト・ダゲスタン」が、ボルゴグラード連続自爆テロの犯行を認めるビデオを自らのサイトに掲載した。この「ビヤラト・ダゲスタン」は、ウマロフ司令官の一派ともつながりがあるとされる。

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12月30日、ロシア南部ボルゴグラードで、爆破されたトロリーバスを調べる消防当局者ら(AFP=時事)

 このビデオによると、アラビア語が書かれた旗を背にロシア語でメッセージを語る2人の男が、ボルゴグラードの連続自爆テロの実行犯だという。実際に彼らがテロを行ったかどうかは不明だが、2人は「オリンピックを開催すればプレゼントを贈ることになるだろう」と、ソチ五輪を狙ったテロを警告。さらに「(オリンピックを訪れる)旅行者にもプレゼントがあるだろう」とも述べ、観客らを巻き添えにするとも警告している。

 テロの脅威に対しプーチン政権は、ソチ市の人口の約1割に相当する3万7000人の警察官、内務省軍兵士らをソチ市内に動員し、1月7日から最高レベルの警戒態勢を敷いた。

 上空からの脅威に備えるため、対空ミサイルシステムS300や、移動式防空システム「パンツィリS1」を展開。小型無人偵察機による偵察飛行のほか、海上は対破壊工作船「グラチョノク」4隻を配備し、警戒にあたっている。

 当局が発行する許可証を提示した車両以外は、ソチ市内に入ることができない。また、五輪観戦のため競技場に入るためには、チケットとは別に、個人情報を前もって登録し発給された写真入り身分証「観戦者パスポート」の所持が義務付けられた。

 鉄道駅などには金属探知機が設置され、乗車するためには空港並みの保安検査を通過する必要がある。ソチ市内には5000台以上の監視カメラが設置された。市内の主要な通りでは多くの警官が警戒に当たり、不審者の摘発に力を入れている。

 ロシアの専門家らは、これら極めて多くの人員・装備を投入したソチ市内での警戒態勢を念頭に、武装勢力が五輪競技施設などを狙ったテロを行うことは困難であると分析する。一方で、このような最高レベルの警戒態勢を、広大な北カフカス地域全域、その他の地域で実施することはできない。

 モスクワと北カフカス地方を結ぶ交通の要衝であるボルゴグラードの交通機関が連続自爆テロの標的となったように、武装勢力がソチに向かう航空機、鉄道などを狙っている可能性が指摘されている。