韓国・文政権 不動産高騰に右往左往

3年で1・5倍、対策空回り

 韓国で不動産価格が高騰し続け、文在寅政権がその対応に右往左往している。政府は価格抑制策を矢継ぎ早に打ち出したが「連戦連敗」(韓国メディア)。政権支持率が急落し、青瓦台(大統領府)の主要幹部が一括して辞意を表明したが、事態打開は見通せていない。
(ソウル・上田勇実)

支持率急落で側近辞意
与党から行政機能移転論も

 韓国には一種の「不動産神話」がある。全人口の約半数が集中するソウル市、仁川市を中心とする首都圏の不動産価格は右肩上がりを続けるというものだ。実際、この神話に支えられるように過去数十年間、首都圏の不動産価格は軒並み上昇を続けた。

文在寅大統領

韓国の文在寅大統領=6月22日、ソウル (EPA時事)

 ところが、文政権になって価格上昇が異常なほど進み、庶民の不満が表面化している。経済不正の追及などを運動理念とする市民団体「経済正義実践市民連合」が大手都市銀の調査を基にまとめたところによると、文政権が発足した2017年5月から今年5月までの約3年間、人気が高い中間価格帯のソウル市内マンションの平均価格は6億600万ウォン(約5400万円)から9億2000万ウォン(約8200万円)に跳ね上がった。実に54%増、つまり3年で約1・5倍になったことになる。

 これは李明博元政権の前半から朴槿恵前政権末にかけての約8年間の増加率25%の倍以上で、政府機関の資産によると年率換算では文政権の上昇率は12倍近くに達する。文政権下での高騰がいかに尋常でないかが分かる。

 このため「サラリーマンが一生懸けてもマイホームを手に入れるのは難しい」と言われるようになり、若者の間に絶望感や虚無感が漂い始めている。

 高騰の原因は低金利に伴う流動性過剰、不動産投機熱などが指摘されているが、中でも政府の不動産対策にもかかわらず住宅供給が伸びない点が問題視されている。政府はすでに20回以上もの不動産価格抑制策を発表してきたが、大幅な供給拡大に結びつけられず空回り続きだ。政府は住宅供給量を増やそうと大家に規制を掛けたが、頻繁に抗議デモを招くありさまだ。

マンション価格

 それでもこうした事態がこれまで政権にとって致命的なダメージにならなかったのは支持率が一定水準を保っていたからだ。ところが、複数住宅保有者の不動産売却を誘導する政策を発表した後、政権幹部や文氏の側近らが複数住宅保有者でありながら売却していないことがクローズアップされると雲行きが急変した。

 世論調査機関リアルメーターが先週実施した調査によると、文氏の支持率は43・9%で不支持(52・4%)との差が広がり、与党・共に民主党への支持率(35・1%)と保守系の最大野党・未来統合党の支持率(34・6%)の差がほぼなくなる結果が出た。

 同時期実施の別の世論調査では、明日が大統領選挙であると仮定して質問したところ、「野党候補に投票する」(42%)が「与党候補に投票する」(41%)を上回った。

 支持率急落に危機感を覚えたのか、盧英敏・大統領室長や青瓦台首席秘書官5人は「最近の状況に責任を取る」として一斉に辞意を表明する異例の事態となったが、保有する複数住宅の売却を渋ったことが発覚したり、辞職すれば売却を免れられるという打算が働いた結果ではないかとする見方が浮上。思惑とは逆に世論の反発を招いている。

 有力な次期大統領候補である李洛淵・前首相をはじめ与党の幹部たちは、ソウルの不動産価格抑制などを目的とし、青瓦台や国会など行政機能をすでに一部省庁がある中部の世宗市に移転させる案を検討すべきと主張し始めた。

 どんな手段を使ってでも不動産高騰に歯止めを掛けたいというのが政府・与党の本音だろうが、仮に抑制に失敗すれば政権へのダメージは避けられない。