抗議デモの過激化 逆に黒人社会を苦しめる
米ミネソタ州ミネアポリスで発生した白人警官による黒人男性暴行死事件をきっかけに、全米で激しい抗議デモが巻き起こった。デモを主導する「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切)」運動の活動家たちが盛んに主張するのが、次のような訴えだ。
「警察にはシステミック・レイシズム(システム化された人種差別)がはびこっている」
事件が起きた責任は、その白人警官だけでなく、黒人差別が組み込まれた警察組織全体にある、との主張である。デモ隊が白人警官に対する裁きよりも、警察の「解体」や「予算打ち切り」という過激な要求を押し出すのはそのためだ。
黒人が白人警官に射殺されるといった事件が起きるたびにメディアが大々的に取り上げるため、警察は黒人を不当に扱っているように映る。だが、警官の対応が相手の肌の色によって変わることが、データではっきり裏付けられているわけではない。ハーバード大学の研究では、警官の発砲に人種的偏見は確認されなかった。
黒人が警官の過剰対応で犠牲になるケースが多い最大の理由は、黒人の犯罪率が圧倒的に高いことだ。黒人が米人口に占める割合は13%にすぎないが、2018年に発生した殺人と強盗の半分以上が黒人によって引き起こされた。犯罪行為が多ければ、それだけ警官と接触する機会が増える。発砲など予期せぬ事態に発展する確率が高まるのは避けられない。
14年にミズーリ州ファーガソンで黒人青年が白人警官に射殺される事件が起きた後も、全米で警察バッシングが吹き荒れた。これにより警官がトラブルに巻き込まれるのを恐れ、積極的な取り締まりをしなくなった結果、各地で凶悪犯罪が急増した。これが「ファーガソン効果」と呼ばれるものである。
今回の事件を機に、今度は「ミネアポリス効果」が全米の警官を萎縮させることは間違いない。加えて、ニューヨークやロサンゼルスなど各地で警察予算を削減する動きが進んでおり、警察の治安維持能力は低下が避けられない。皮肉にも、治安悪化で最も打撃を受けるのは、危険な地域に住む黒人貧困層だ。
暴動や略奪が起きた地域では、企業や店舗の流出が進むとみられる。これにより雇用が減り、失業者が増え、貧困率が上昇し、治安はますます不安定化する。黒人が経営する店も暴動で数多く破壊された。
結局、過剰な警察叩(たた)きと暴力による抗議活動は、黒人社会に不利益しかもたらさない。だが、米国を人種差別国家と告発することが運動の目標になっているが故に、過激な方向へと進んでしまうのだろう。
抗議デモへの対応で非難を浴びるトランプ大統領だが、11日にテキサス州ダラスの教会で行った演説では、極めて重要なメッセージを発している。
「われわれは一丸となって偏見や先入観に立ち向かわなければならない。だが、何千万もの善良な米国民に人種差別主義者という誤ったレッテルを貼るなら、進歩はないし、傷を癒やすことはできない」
世論調査でも米国民の7割以上が平和的な抗議デモを支持するなど、大半の人は差別を無くしたいと思っている。だが、米国を絶望的な差別国家と見なすニューヨーク・タイムズ紙「1619プロジェクト」の歴史観が浸透すれば、黒人の不満や怒りは増幅され、今後も何らかの事件で暴動が巻き起こるということが繰り返されるだろう。
(編集委員・早川俊行)