トランプ米大統領の行く末、最悪のシナリオは暗殺
エルドリッヂ研究所代表・政治学博士 ロバート・D・エルドリッヂ
強制的な引退や弾劾、辞任も
ドナルド・J・トランプが第45代アメリカ合衆国大統領になってから半年以上が経過した。その間、アメリカの国際的な地位が大きく揺れ、国内社会では混乱状態は続いている。
先日、フォックスニュースが行った世論調査では、56%がトランプ大統領は「アメリカを分断している」と回答した。ご存じのように、フォックスニュースの視聴者のほとんどは政権与党の共和党の支持者であることを考えると、トランプを支持していた人々を含むアメリカの国民は今後のアメリカの方向性を懸念している。
最も象徴しているのは、バージニア州シャーロッツビルの人種差別主義者の集会での衝突とその後のトランプ大統領の発言だ。また、その直後に、テキサス州ヒューストンを中心に襲ったハリケーン「ハービー」は、人的な被害は比較的少なかったが、経済的な影響は大きい。アメリカの製油所の3割は被災地にあり、今後、石油価格の上昇や復興のコストに関してどうなるかは未知数だ。
これらの状況を悪化させているのは政治的な不安だ。政治的な不安をもたらしているトランプ旋風だ。
この政治的な混乱を取り除くのに、つまり、トランプ大統領の扱いに関してさまざまな議論がある。言うまでもなく、この議論自体はおかしな話だ。通常、大統領は主人公であって、「対象者」ではない。ところが、政治の「常識」をあまりにも知らな過ぎで、礼儀も分かっておらず、憲法の精神と条文を守ろうとしないから、トランプ政権の今後も注目を要する。
そこで考えられるさまざまなシナリオを簡潔に紹介し、検証する。
一つ目は、暗殺されるという極端で最悪のシナリオだ。それは民主主義国家において政治的な暴力を断じて許してはならないが、彼には(既存の共和党を含めて)敵が多く、その敵の既得権や利害に抵触した場合、その可能性は否定できない。また、銃などの武器を持っている発狂的な人はいくらでもいる。トランプ大統領自身もヘイトを促す発言を今まで繰り返してきた。彼を止めるのに、この方法を利用しないとは限らない。考えたくないが、その可能性が大きいと私は見ている。
二つ目は、アメリカ合衆国憲法修正第25条によって、大統領を追い出すというシナリオだ。その第4節は、「副大統領および行政各部の長官の過半数または連邦議会が法律で定める他の機関の長の過半数が、上院の臨時議長および下院議長に対し、大統領がその職務上の権限と義務を遂行することができないという文書による申し立てを送付する時には、副大統領は直ちに大統領代理として、大統領職の権限と義務を遂行するものとする」とある。これは、いわゆる「自発的ではない引退」である。この修正案が提案されたのが1965年7月で、67年2月に批准が完了した。導入してから今年で50年がたつが、今まで一度も行使されたことがない。
三つ目は、司法妨害を含めてさまざまな行為が憲法違反と判断され、議会によって弾劾ないし罷免されるというシナリオ。法的には、既に妨害や汚職などの法律に違反してきたが、ポイントは政治的に追及されるかどうかだ。特に、野党の民主党にとって、支持率が落ちているトランプが大統領の座に居れば居るほど来年の中間選挙で有利だと見られている。
四つ目は、本人が弾劾を避けるため、あるいは、その他の理由で自ら辞任するケース。これは本人の意思によるか、周りの説得や圧力によるか、といういろいろなドラマが想定される。
五つ目は、トランプは最終的に弾劾されず、辞任もしない。つまり、そのまま1期目、もしかすれば、2期目を全うするまで続く。その可能性は最も低いと思っているが、野党は不健全で機能していないため、再選されない保証はない。
実はそれ以外、大統領の座から追い出す方法が最近発表された。非常に面白く、トランプのメンツを守ると同時に、この混乱な時期を乗り越えられるという二つの課題を両立できる唯一の方法だと指摘されている。それは、憲法を変えて、トランプをほとんど権限がない「王様」にするという提案だ。イギリスの女王をモデルにしたこの制度で、現副大統領は、大統領ないし内閣総理大臣にするというもの。つまり、イギリスのような制度にするのだ。
この指摘はジョークである。ある有名なコメディアンはまじめそうに提案したのだが、かなりの共感を呼んだ。言ってみれば、そこまでアメリカ国民は昨年11月の自分たちの選択に困惑し、後悔している。「(彼は)私の選択肢ではなかった。彼に入れていない」という人もいるが、しかし、私たちの制度(選挙人団)によって、その結果になった。民主主義のルールに従わないといけない。
既存の政党、主要なメディア、そして全ての有権者が深く反省しなければならないが、それをしない限り、トランプが残っても、去っても、アメリカの政治は変わらない。トランプ政権下のアメリカは危機的と思う国民もいるが、その以前、つまりトランプ政権を選んだアメリカの方が危ない。






