それでも不変トランプ支持者
アメリカン・エンタープライズ研究所客員研究員 加瀬 みき
中心は白人クリスチャン
大統領に文化伝統の守護期待
トランプ米大統領に対する支持率は歴代最悪といわれるまでに下がった。国内政策は一向に進まず、海外では同盟国を脅かし、問題国を勢いづけ、アメリカの地位の低下を招いている。もっと数字が下がらないのが不思議と言えるが、トランプ氏を大統領にした支持者たちの見方はほとんど変わっていない。
7月16日に発表されたワシントン・ポスト(WP)とABCによる世論調査では、大統領支持率は36%と4月の同調査から6ポイントも減少した。強い不支持を表明した回答者が48%にも上った。クリントン元大統領やオバマ前大統領は、どんなに人気のない時期でもここまで下がることはなかった。イラク戦争もあり、決して人気のなかったブッシュ(息子)元大統領ですら、2期目になるまで匹敵する数字に到達することはなかった。
大統領候補としてのトランプ氏はオバマケア(オバマ前大統領が推進した医療保険制度改革法)の廃止と代替案の施行、税制改革、メキシコとの国境沿いの壁建設、不法移民を追放、イスラム教国からの移民・難民の入国制約といった約束をし、支持を得た。しかし大統領となって半年の間に、不法移民の追放を加速した以外はいずれも実施できていない。オバマケア廃止や代替法は上院で共和党議員の支持も十分に得られていない。代替法が施行されなければ、税制改革は行えない。国境沿いの壁は建設予定部分がどんどん短くなっており、今のところ新たに建設された壁はない。国民の大多数がムスリムである6カ国からの入国者は一時的に一部を止めることができたが、当初の思惑よりその数はかなり少なく、最高裁の最終的な判決は秋まで出ない。
アメリカの中には、自国が「世界の警察官」となり、他国の治安のために戦うこと、他国の問題に巻き込まれることを嫌う国民は多い。しかし、トランプ氏が大統領になってからアメリカへの尊敬や畏怖の念が失われ、アメリカが世界の指導国として信用されなくなってきていることには、多くが失望し、懸念を抱いている。
こうした問題に加え大統領選挙に介入したと諜報(ちょうほう)機関が断定したロシアに対するトランプ氏の寛容な姿勢、トランプ氏のツイッターやインタビューでの無責任発言で普通であればもっと支持率が低下してもおかしくないのに何故(なぜ)そうならないのであろう。
WP/ABCの調査を見ると、一番下がったのは38%から32%へと無所属有権者の支持である。民主党系有権者からの支持はもともと非常に低く13%であったが、それが11%に減少した。一方、共和党系有権者の支持率は84%から82%になった。歴代大統領の自党系有権者の支持率がほぼ9割であることを考えれば、これは低い。しかし、トランプ氏は最初から支持率の低い大統領ではあった。
一方、トランプ氏を大統領に選んだ人々の同氏への支持は変わらず高い。7月中旬のエコノミスト誌とユーガブ社の調査によれば、支持者の58%がここまでの業績を「高く評価」し、さらに30%が「まあまあ評価」している。つまり88%が大統領としてのトランプ氏を評価していることになる。
まずその背景には、トランプ氏の支持者にとってトランプ氏を批判するメディアはフェイクニュースでしかなく、トランプ氏が約束を守れないのは、議会や政府機関、マスコミが妨害しているからと見なしている、という事情がある。彼らの多くがトランプ氏を支持するトークショーのホストだけを信じている。さらにもっと深い事情もある。
大統領選挙結果を振り返ると、白人の過半数(男性の63%、女性の53%)がトランプ氏を選んだ。また無宗教の人の7割近くがクリントン氏を選んだのに対し、エバンジェリカルの8割、白人でカトリックの6割がトランプ氏を選んだ。こうした人々がいまだに大統領を支持していることになる。彼らがトランプ氏を選んだ大きな理由は、トランプ氏が彼らを理解してくれ、彼らのために戦ってくれると信じたからである。あと30年もすれば白人は人口の過半数を割るとされる。さらにはクリスチャンの割合も減っており、現在65歳以上では白人クリスチャンが7割を占めるのに対し18歳から29歳ではそれがわずか3割となっている。
白人の割合が減っているのは自然減だけではない。教育レベルも収入も低い白人が多くトランプ氏を支持したが、そうした人々が集まる地区では自殺や心臓病、オピオイド等の薬中毒によるいわゆる「絶望の死」が大幅に増え、白人人口の低下に拍車を掛けている。
白人のクリスチャンが建国した国で、彼らは過半数を維持できなくなろうとしている。多くが貧しく、教育レベルも低く将来に絶望している。しかし一部は教育レベルが高く、収入もある。共通するのは、自分たちの伝統や文化が失われることへの反発や怯(おび)えである。
トランプ氏はそうした人々の心をとらえた。今月初め白人カトリックの国ポーランドで西洋文明は存続の危機に瀕しているが、絶対に守り抜こうと述べた。それはまさに白人のクリスチャン文化を守るというメッセージである。トランプ氏がこうしたメッセージを送り、最高裁の裁判官として保守主義の裁判官を任命する限り、トランプ氏の支持者は自分たちのために戦ってくれるトランプ氏を支持し続ける。
(かせ・みき)