米情報機関 トランプ氏と深まる確執

背景に「リベラル傾斜」の歴史

フレッド・フライツ安全保障政策センター 上級副所長

フレッド・フライツ安全保障政策センター
上級副所長

 トランプ次期米大統領の就任が目前に迫る中、深刻化しているのが中央情報局(CIA)など情報機関との確執だ。米シンクタンク「安全保障政策センター」のフレッド・フライツ上級副所長は、本紙の取材に対し、トランプ氏が不快感を露骨に示す背景には、本来、中立であるべき情報機関がリベラルで政治色の強い組織と化している現実があると指摘した。

 トランプ氏は大統領選中から情報機関に批判的だったが、不信感を一段と強めたのは、ロシアによる米民主党全国委員会などへのサイバー攻撃はトランプ氏を勝たせる目的だったというCIAの分析が、米メディアで報じられたことだ。トランプ氏は情報機関がメディアにリークし、自身の勝利の正当性を貶(おとし)めようとしていると受け止めた。

 情報機関に反発するトランプ氏をオバマ政権や主要メディアは批判しているが、CIA分析官を19年間務めたフライツ氏は「トランプ氏が情報機関に憤慨する理由がある」と、同氏の言動に理解を示した。

 フライツ氏は「情報機関が大統領や大統領候補を傷つけようとした事例は過去にもある」と指摘。リベラル傾斜が顕著なCIAは共和党政権に露骨に反発してきた歴史があり、2004年大統領選では、CIA職員が再選を目指していた当時のブッシュ大統領を批判するスピーチを行い、物議を醸した。

 大統領選中からトランプ氏に不都合な情報がリークされていることについて、フライツ氏は「そのほとんどがホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)から流れたものだろう。政治任用の情報機関高官がトランプ氏に関する情報を(NSCに)リークしたと思われる」と指摘した。

 トランプ氏がモスクワ市内のホテルで売春婦と性的行為を行っている映像などをロシアが握っているとする未確認情報を一部メディアが最近報じたことも、トランプ氏は米情報機関のリークだと疑っている。フライツ氏は未確認情報を虚偽の可能性が高いとした上で、「米情報機関がリークに関与していないことを願うが、もしそれが事実なら深刻な事態だ」と強い懸念を示した。

情報機関との確執が外交・安全保障政策やテロ対策に悪影響を及ぼすことに懸念が出ているが、この点についてフライツ氏は「政治任用の情報機関高官は退任し、トランプ氏が客観的で政治色のない分析を提供する人材に入れ替えるだろう。問題は解決される」との見通しを示した。

米情報機関 オバマ政権支援の情報操作も
政治色排除へ組織改革が課題に

 フライツ氏によると、情報機関はオバマ政権下で一段と政治化したという。その最たる例が、12年に発生したリビア・ベンガジの米領事館襲撃事件をめぐる情報操作だ。

 襲撃事件は過激派によるテロ攻撃だったにもかかわらず、オバマ政権は反イスラム動画への抗議デモに起因する自然発生的な事件だと説明。CIA幹部が現場からの情報と異なる資料を作成したとされ、政治的影響を抑えるため、事件を矮小(わいしょう)化したいオバマ政権の意向に情報機関が加担した疑いが指摘されている。

 また、オバマ政権が過激派組織「イスラム国」(IS)の勢力拡大を許した一因は、その脅威を過小評価していたことだ。オバマ氏は当初、ISをスポーツの「2軍チーム」に例え、国際テロ組織アルカイダのような深刻な脅威には発展しないと断定するなど、甘い見通しを示していた。

 フライツ氏は「情報機関は大統領が聞きたくない真実を伝えなければならない。だが、オバマ政権では大統領の機嫌を取るために都合の良い情報だけが伝えられていた。大統領も国務長官もISやシリア、イラクなどの真実に関心がなかったのだろう」と批判した。

 情報機関を中立的な組織に変えるには、「リーダーシップが欠かせない」とフライツ氏は強調。ブッシュ前共和党政権は、クリントン政権で起用されたジョージ・テネットCIA長官を留任させるなど、強力なリーダーの不在によりリベラル傾斜を是正できなかったが、「トランプ政権は違うアプローチを取るだろう」と期待感を示した。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、トランプ氏は情報機関を統括する国家情報長官室について、「肥大化し、政治色を強めている」として再編・縮小を検討している。国家情報長官のポストは、01年の米同時テロを防げなかった反省から、16ある情報機関の協力や情報共有を促進するために設けられたが、肥大化した同室は事実上、17番目の情報機関となり、逆に効率性を損ねているとの批判が出ていた。

 フライツ氏は「トランプ氏が情報機関を再び偉大にするには、官僚組織を簡素化しなければならない」とし、国家情報長官室の縮小を強く支持した。