ブラジル・中南米で「ジカ熱」拡大
五輪控え、国軍投入し蚊駆除
「小頭症」との因果関係が強く疑われているジカウイルスが、ブラジルの感染拡大を機に世界の関心事となっている。日本においても一昨年、熱帯特有の伝染病とされた「デング熱」が流行しており、ジカウイルスの感染拡大を阻止するための取り組みが必要とされている。
(サンパウロ・綾村 悟)
感染妊婦に小頭症リスク
ワクチン薬未開発、避妊・中絶の権利求める声も
今年8月にリオデジャネイロ五輪が開催される南米ブラジルで、蚊を媒介とする「ジカ熱」や「デング熱」などウイルス性の病気感染拡大が大きな社会問題となっている。
特に、妊婦が感染すると、胎児に「小頭症」を引き起こす可能性があると言われている「ジカウイルス」の感染拡大に伴い、小頭症の発症例が昨年10月以降だけでも3000件を超えるという非常に深刻な事態となっている。
ブラジル政府は昨年11月、「ジカウイルス」の感染拡大を受けた非常事態を宣言、ルセフ大統領は国軍を投入して蚊の発生源の根絶を図るなど、対策を急いでいる。
小頭症は、胎児の脳の発達に障害を引き起こし、妊娠中の死産につながるだけでなく、生まれてきた場合でも知能や運動機能などに深刻な問題を引き起こす。「ジカウイルス」と「小頭症」の関連性に関し、明確な科学的証明はされていないが、小頭症を発症している地域がジカ熱の発症地域と重なることや、小頭症で死亡した胎児の体内からジカウイルスが発見されたことなどから、世界保健機関(WHO)は、ジカ熱と小頭症の関連性に「強い疑い」を持っている。
また、ジカウイルスに対して効果のあるワクチンや抗ウイルス薬などは未だ存在しておらず、ジカウイルスに感染しないためには、蚊の発生を抑え、蚊に刺されないようにするしかないのが現状だ。
現在、ジカウイルスは中南米各地に感染が拡大、ブラジルだけでも、この1年間で50万人から150万人の感染者を出したと言われる。また、最近感染が拡大しているコロンビアにおいても2000人以上の妊婦がジカウイルスに感染したという。コロンビアやブラジルの感染が多い地域では、医療関係者などが、女性にしばらくの間妊娠を控えるか、最新の注意を払うように呼びかけている。
ジカウイルス拡大の深刻な事態を受けて、ブラジル政府は、夏季五輪が開催される8月(ブラジルの暦では冬)までに事態を沈静化させようとしている。
また、ブラジルでは、小頭症を持って生まれてきた子供の治療に向けた体制も整え始めている一方、弁護士や専門家のグループは、人工中絶が禁止されているブラジルにおいて、ジカ熱感染が認められた妊婦に対して、人工中絶が「女性の権利」として認められるよう働きかけている。
今後、ジカウイルスの感染拡大を抑えることができない場合、世界中から、ブラジルへとオリンピック観戦客が集まることで、ジカウイルスを拡散させる可能性が残る。
WHOは今月1日、事務局長名でジカ熱に対する緊急自体宣言を出しており、効果的な封じ込め策が取られない場合、今年1年間で世界各国で600万人の感染者が出る可能性があると警告した。
ジカウイルスに感染して発症する「ジカ熱」は、3日から12日の潜伏期間に加えて、軽度の発熱など軽症で済むことが多く、感染に気づかずに治癒する場合も多いと言われる。それだけに、水際で防ぐことが非常に難しいウイルスの一つだ。昨年以来、米国や欧州で発見されているジカ熱の発症確認者も南米からの帰国者だ。
日本においても、ジカ熱はブラジルでの流行などからニュースではよく聞く名前だが、日本国内での発症例が感染地域からの帰国者など数例しか知られておらず、馴染(なじ)みが少ない病気だ。
日本の専門家らは、妊婦のブラジルへの渡航自粛などを訴えているが、それ以上に、感染地域に渡航した旅行者などが、ウイルスに感染した状態で日本に帰国することを視野に入れる必要がある。
ジカウイルスを媒介する蚊は、熱帯に多いネッタイシマカだけでなく、日本に広く生息するヒトスジシマカも含まれている。さらに、昨今のケースでは、熱帯地方特有の感染症と考えられていたデング熱が、日本でも流行するなど、ジカウイルス感染が日本においても拡大する可能性は十分に考えられる。ブラジルのジカ熱流行では、昨年5月に初の感染例が発見され、その後半年間で数十万人以上に急速に感染が広がっている。感染拡大には十分な注意が必要だ。
今月1日からは、日本でもジカウイルス感染者の報告が義務付けられるなど、対応策が進みつつある。ただし、リオ五輪でブラジルに渡航する旅行者が増えることが予想されるだけに、ジカウイルス感染拡大の阻止に向けて、現地での感染情報などに注意を払う必要がありそうだ。






