岐路に立つ米共和党

支配層、穏健派路線に活路模索

 10月の米財政協議と政府一部閉鎖で最も政治的打撃を受けたのは、共和党だろう。来年の中間選挙、2016年大統領選挙を控え、共和党は大きな岐路に差し掛かっている。
(ワシントン・久保田秀明)

党内では強硬派が台頭

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共和党穏健派のホープ、クリス・クリスティー・ニュージャージー州知事(Creative Commons/David Shankbone)

 11月5日に実施されたニュージャージー州とバージニア州の知事選は、来年の中間選挙、さらには2016年大統領選の前哨戦と言われた。ニュージャージー州では、共和党穏健派とされる現職のクリス・クリスティー州知事(51)が再選のための選挙戦を展開。バージニア州では、共和党保守強硬派とされるケネス・クチネリ州司法長官(45)が草の根保守運動「ティーパーティー(茶会)」の全面的支持を得て、知事の座を狙った。

 ニュージャージー州知事選では、クリスティー氏は民主党支持基盤の黒人、ヒスパニック系などマイノリティー層からもかなりの支持を得て、民主党選挙区で大幅に票を伸ばした。民主党対立候補のバーバラ・ブオノ同州議会議員に22ポイントもの差をつけて圧勝した。

 他方、バージニア州知事選では、政府一部閉鎖を招いた財政協議やオバマケアが争点になったが、政府閉鎖の影響を直接受けた連邦政府職員が多く住むバージニア州北部でクチネリ氏の票が伸び悩んだ。クチネリ氏はクリントン夫妻の腹心であるテリー・マコーリフ元民主党全国委員長に、僅か2ポイント差で敗れた。

 クリスティー氏とクチネリ氏は同じ共和党でも極めて対照的な政治家だ。クリスティー氏は民主党との超党派的協力で実績を積んできた政治家だ。昨年の大統領選直前に米北東部を襲ったハリケーン「サンディ」の際には、オバマ大統領の対応を称賛し、共和党保守派から「裏切り者」呼ばわりされながらも被災者に対する連邦支援を獲得した。公共セクター労組の影響力抑制など党派を超えた活躍をし、民主党とも協力できる実用主義者の評価を確立している。

 これに対して、クチネリ氏は州司法長官として全米に先立って、オバマケアは憲法違反だとして訴訟を起こした。減税を掲げてオバマ政権の財政政策を批判し、同性愛、人工妊娠中絶に一貫して反対してきた茶会運動の「英雄」である。

 共和党全国委員会をはじめとする共和党エスタブリッシュメントから見て、今回の選挙は、民主党とも協力できる穏健派で実用主義者のクリスティー氏が2016年大統領選有力候補たり得ることが実証された戦いだった。共和党エスタブリッシュメントは、民主党、無党派層からも支持を得ることができる穏健派路線に活路を見いだそうとしている。過去2回の大統領選で勝てなかったのは、共和党が白人男性の党というイメージが強すぎ、人口増大が著しいヒスパニック系や黒人といったマイノリティーを引き付けることができなかったからだ。共和党エスタブリッシュメントは、次の大統領選に向けてもマイノリティー、女性票をも引き付け得るクリスティー氏のような穏健派候補を擁立する方向に傾いている。

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政府機関の一部閉鎖を受け、記者団に語る共和党のベイナー米下院議長(中央)=10月1日、ワシントン(EPE=時事)

 半面、共和党の中で、茶会派に代表される保守強硬派が影響力を拡大していることも事実だ。茶会派とされるテッド・クルーズ(テキサス州)、ランド・ポール(ケンタッキー州)といった保守強硬派上院議員、30人から40人いる茶会派下院議員は、財政協議でも、共和党エスタブリッシュメントに真っ向から挑戦した。オバマケア予算を否定する予算案でなければ可決しないという強硬姿勢を貫き、政府を一部閉鎖に追い込んだ。ジョン・ベイナー下院議長はじめ共和党議会指導部も、茶会派の議員を制御しきれなかった。

 2016年大統領選挙に向けても、茶会派は、民主党と妥協を計る穏健路線を追求しようとする共和党エスタブリッシュメントの動きを指をくわえて見ているつもりはない。茶会派は、過去2回の大統領選で共和党エスタブリッシュメントがミット・ロムニー氏、ジョン・マケイン氏といった穏健派を候補にして失敗してきたことを指摘する。クリスティー氏を「名前だけの共和党員」と批判し、同氏のような穏健派候補を擁立すれば、共和党はまた敗北すると警告する。

 クルーズ上院議員は医療保険制度改革法(オバマケア)の予算阻止のため、21時間のマラソン演説を行い、新人議員でありながらマスコミから最大の注目を集めた。茶会派からの同議員への支持率は7月時点では47%だったが10月には74%まで急上昇した。同議員は、今や2016年大統領選の共和党最有力候補の1人だ。

 共和党は、来年の中間選挙、2016年大統領選を前に、党のアイデンティティーを穏健派、保守強硬派のどちらに見いだすか、アイデンティティーの危機に直面している。