米で薬物過剰摂取が深刻化
2014年の死亡者は過去最悪
米国で薬物の過剰摂取による死亡が最悪の状況になっている。米疾病対策センター(CDC)が先月発表した報告書によると、2014年の死亡者数は過去最多を記録。麻薬性の鎮痛薬を服用するうちにヘロインに手を染める人が急増していることも明らかになり、米政府の対策は追いついていない状態だ。(ワシントン・岩城喜之)
「大流行の水準」 麻薬取締局が警告
「薬物による死亡は大流行の水準にある」
急増する薬物関連の中毒死について、米麻薬取締局は、こう強く警告する。
CDCの報告では、14年の薬物過剰摂取による死亡者数は4万7055人で、13年の4万3982人から約6・5%増加した。そのうち、オピオイドと呼ばれる麻薬性鎮痛薬とヘロインの合計死亡者数が全体の約6割に達しているなど、特に深刻化している。
国連薬物犯罪事務所(UNODC)によると、全世界での薬物による死亡者数は推計約18万7000人。米国はこのうち約4分の1を占め、他国と比べても飛び抜けて高い数字だ。
ヘロイン利用者の特徴として、「(オピオイドなどの)鎮痛薬を最初に服用し、その後にヘロインに移る」(CNNテレビ)人が多いことが挙げられる。これは、オピオイドの常用で薬物依存に陥った人が同じ快感や高揚感を得るために、より低価格で似たような効果を持つヘロインに手を出すことが原因だと指摘されている。
CDCの集計では、薬物依存による死亡は交通事故死の約1・5倍にもなっている。近年は、地方での薬物中毒が増えているのも特徴だ。
14年の死亡者数が前年比26・2%増だったニューハンプシャー州では、地元テレビ局が10月に行った世論調査で、薬物乱用を「最も深刻な問題」と考える人が経済問題や教育を抜いて、過去8年で初めてトップになった。
こうしたことから、CDCのトーマス・フリーデン所長は「薬物過剰摂取による死亡の流行は米国の地域社会や家庭を壊滅させる」とし、憂慮すべき事態だと危機感を示す。
米連邦議会は昨年末、オピオイド乱用を防止するための予算を1億2300万㌦(約148億円)に増額することを決めている。米厚生省のシルビア・バーウェル長官は「(薬物問題は)超党派で取り組まなければならない課題だ」と述べ、対策を強化する方針を示した。
ただ、これまでにも米政府はさまざまな薬物使用防止キャンペーンを進めてきたものの、死亡者数の増加に歯止めがかからず、成果を上げているとは言い難い状況にある。
オバマ政権が10年に発表した「薬物管理戦略」では、15年までに「薬物に起因する死亡を15%削減する」との目標が掲げられていた。しかし達成はほぼ不可能な状況で、逆に有効な手立てが見つからない現状を浮き彫りにした格好になった。
薬物過剰摂取の問題が深刻化する中で、今年11月に行われる大統領選の候補者も積極的にこの問題を取り上げるようになった。
先月15日に行われた共和党候補によるテレビ討論会では、ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事が「ヘロインを簡単に国内に持ち込めるため、全米各地で薬物の過剰摂取が蔓延(まんえん)している」と指摘、ヘロインの国内流入を阻止するために国境での取り締まりを強化すべきだと表明した。
元ヒューレット・パッカード最高経営責任者(CEO)カーリー・フィオリーナ氏は娘が薬物中毒で死亡したことを明かし、同じ悲しみを味わう人を減らしたいと訴える。クリス・クリスティー・ニュージャージー州知事は、薬物乱用を防止する政策を大統領選の公約に掲げ、選挙戦で主要議題として取り上げる意向を示している。
一方、民主党有力候補のヒラリー・クリントン前国務長官は、夫のビル・クリントン元大統領などと共同で運営するクリントン財団を通じて、オピオイド乱用を減らす取り組みを始めている。
薬物依存の防止策について、麻薬取締局のチャック・ローゼンバーグ局長代行は「若者たちが低年齢のうちに薬物乱用の危険と恐怖を教えなければならない」とし、薬物に触れる前の教育が重要だと語る。
「大流行の水準」にある薬物依存と過剰摂取による中毒死。米国は複雑で困難な課題に直面している。







