来月ベネズエラ総選挙、与野党逆転の可能性
強権政治行うマドゥロ政権
南米ベネズエラで来月6日に中間選挙(国会議員選挙)が実施される。世論調査では野党有利だが、反米左派マドゥロ大統領の強権政治と選挙監視団の受け入れ拒否などもあり予断を許さない状況だ。
(サンパウロ・綾村 悟)
有力野党指導者を逮捕
選挙監視団の受け入れ拒否
南米最大の産油国ベネズエラでは、1999年に反米左派の故チャベス大統領が就任して以来、故ウゴ・チャベス大統領とその後継者のニコラス・マドゥロ大統領による強権政治が続いてきた。
また、2002年の軍部によるクーデターの失敗、さらには2005年の野党による議会選挙ボイコットを受けたチャベス派による議会独占以後、与党の第五共和国運動と後身のベネズエラ統一社会党(PSUV)が、常に国会多数派を占めてきたのがベネズエラの政治情勢だ。
そのベネズエラの政治状況に変化が訪れようとしている。理由の一つは、故チャベス大統領が、癌(がん)との闘いの末に2013年3月に死去したことだ。稀有(けう)なカリスマ性で高い支持率を得てきた故チャベス大統領の死が、チャベス派にとって大きな損失であったことは間違いない。
さらに、チャベス大統領の後継者として指名された現職マドゥロ大統領は、経済政策の失敗と原油価格の下落に伴う深刻な経済危機から、国内での支持率を大きく落としている。
ベネズエラでは、膨大な社会福祉事業や企業の相次ぐ国営化や接収、キューバやニカラグア向けの安価での原油供給、原油関連プロジェクトへの投資不足などが原因で経済成長が鈍化、生活必需品の深刻な不足や高いインフレ率(2014年は年率70%)などにつながってきた。ベネズエラ国内のスーパーマーケットには、生活必需品を求める長蛇の列が毎日のようにできている。ベネズエラでは昨年2月以降、生活必需品の不足や高インフレへの不満からマドゥロ政権に対する抗議行動が全国に広がり、デモ参加者を含む43人が死亡した。
さらには、昨年からの原油安が、ベネズエラの経済危機に追い打ちをかける状況となっている。ベネズエラは、外貨獲得と財政収入のほとんどを原油に依存している。ベネズエラが財政状況を改善するためには、原油価格が1バレル80㌦以上(2015年平均約54㌦)であることが必要とされるが、主要産油国の多くは減産などの価格調整に前向きではない。
中間選挙を前に、マドゥロ政権は悪化するインフレ率や経済成長率など、不利となる経済指標の公開を抑えている。
さらに与党の状況を悪くしたのが、ベネズエラのマドゥロ大統領夫人の親族2人が今月初め、麻薬密輸の疑いでハイチで逮捕され、米国に移送された上で正式に起訴されたことだ。与党は「大統領の親族の逮捕は中間選挙に向けた米国の陰謀だ」と事実を否定するが、政権のイメージを悪くしたことは間違いない。
中間選挙に向けた世論調査を見ると、与党の支持率が約30%、野党のそれは60%にも達している。選挙終盤に向けて、社会福祉のバラマキやマスコミを通じた政見放送などにより与党の強みが出てくると予想されるが、それでも、現時点では与野党逆転が起こっても決しておかしくない数字だ。
ただし、野党優勢とも言い切れないのが、ベネズエラの現状でもある。一つには、現政権による野党政治家に対する弾圧により、有力な野党政治家が、反政府活動などの名目で拘束されている状況がある。
今年2月、反大統領派の重要なリーダーの一人でもあるカラカス市長のアントニオ・レデスマ氏が、反政府的な陰謀を企てたとの容疑で逮捕された。さらには、野党指導者として注目を集めていたレオポルド・ロペス氏が同月、反政府デモを扇動した罪を問われて逮捕され、9月には禁錮13年の実刑判決を受けて収監されている。主要なリーダーを相次いで失った野党の結束力にも不安はあり、選挙終盤まで野党が優勢でいられるかは未知数だ。
こうした中、中間選挙を前に、米州機構(OAS)と米州の主要国は、ベネズエラに対して選挙監視団の受け入れを要請してきたがベネズエラ選管は監視団の受け入れを拒否している。OASは、ベネズエラ政府に対して透明で公正な選挙を強く求めている。また、ブラジルは、米国の影響がない南米諸国連合(UNASUL)から選挙監視団派遣することを求め、最後までベネズエラと交渉してきたが、今月20日に監視団の派遣を断念するとの声明を出している。
最近ではツイッターの投稿が反社会的だとして政府によって拘束されるケースも出ている。マドゥロ政権は、どのような強権的な手法を使ってでも、与党優位と政権維持を図ろうとしているが、政権と与党がその勢いを失いかけているのは明らかだ。






