南シナ海で「航行の自由」作戦、米政権の判断遅れに不満の声

国防総省は半年前から検討

南シナ海・南沙(英語名・スプラトリー)諸島に中国が造成した人工島の12カイリ(約22㌔)以内を米海軍のイージス駆逐艦「ラッセン」が10月27日、航行した。作戦は米国内で歓迎されたが、米メディアによると、国防総省が半年前から航行の準備をしていたにもかかわらず、ホワイトハウスが慎重な姿勢を示していたために何度も先延ばしになり、同省関係者から不満の声も上がっていたという。
(ワシントン・岩城喜之)

「中国の軍事的脅威強める」

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カーター米国防長官(AFP=時事)

 「最近、(南シナ海で)海軍の作戦があった。国際法が許す場所であれば、われわれはいつでも飛行、航行、作戦を行う」

 先月27日の米上院軍事委員会の公聴会。アシュトン・カーター国防長官は、南シナ海で「航行の自由」作戦を実施したことを認めた。

 国際法では、満潮時に海面に沈む岩礁を埋め立てたものは領海と認められていない。今回、「ラッセン」が付近を航行したスービ礁などは、中国による埋め立て以前は海面下にあったために航行は国際法に則ったものだ。

 年間約600兆円に上る海上貿易の航行がある南シナ海は、「世界で最も重要なシーレーンの一つ」(米紙ワシントン・タイムズ)。この海域を勝手に領海とする中国の主張は国際ルールをないがしろにするため、米国は毅然(きぜん)とした態度を示した。

 一方で、必要以上に中国を挑発しないよう、米軍艦は南シナ海でベトナムやフィリピンが領有権を主張する岩礁の12カイリ以内も航行。領有権問題ではどちらか一方だけに与しないという姿勢も見せた。

 作戦を実際に指揮した米太平洋軍のハリー・ハリス司令官は「われわれは数十年にわたり世界中で航行の自由に関する作戦を展開してきた。このような通常の作戦がどこかの国に対する脅威とはならない」と述べ、随時作戦を行う姿勢を示している。

 米メディアによると、今後は「四半期(3カ月)に2回以上」の頻度で軍艦の派遣が実施される。カーター長官は「南シナ海問題への重大性から、周辺地域の国々は、米国に安全保障上の協力を強化してほしいと考えている」と述べ、米軍のプレゼンスを高める方針を示している。

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米海軍のイージス駆逐艦「ラッセン」(右) 米海軍提供。3月12日、韓国沖(EPA 時事)

 このように米国の「意思」を示した「航行の自由」作戦だが、一部米メディアは、国防総省が5月中旬頃から軍艦の派遣を検討していたにもかかわらず、オバマ政権の意向で実行が遅くなったと報じている。

 ロイター通信は国防総省関係者の話として、同省が準備を整えてから決断が下るまでの数カ月間、ホワイトハウスと国務省から何度も待つよう言われたことを伝えている。さらに、オバマ大統領が「不必要な先延ばし」をしたために、国防総省内の一部では「不満が募っていた」ことも報じた。

 国防総省から進言があったにもかかわらず判断を引き延ばしたのは、9月25日に行われた米中首脳会談で対話の糸口を探ろうとしていたからだとする見方もある。中国と全面的に対立するのを避けようとした米政権だが、習近平・中国国家主席が「南シナ海の島は中国固有の領土」との主張を一歩も譲らなかったことから、オバマ氏は派遣を決めたとも言われている。

 いずれにせよ、オバマ政権が決断を遅らせたために大きな話題を集め、「必要以上に事が大きくなった」(ロイター)ことは確かだ。

 マケイン上院議員は先月27日、「(航行は)遅きに失した」とする声明を発表。さらに中国の埋め立てに対してすぐに行動を取らず、「失望した」と批判した。その一方で、作戦を実行したことは歓迎。「中国による航行の自由権への挑戦が増えているため、国際法が許す米国の飛行、航行の自由はさらに重要になる。南シナ海が例外であってはならない」とし、今後も継続した作戦が重要との認識を示した。

 一方、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)は、派遣の決断までに時間がかかったために「中国は人工島建設を加速させて軍事的な脅威を強めた」とし、「(派遣の)遅れは高くついた」と指摘した。