米研究機関報告書 「家庭再建」は経済成長に寄与

マクロレベルでも大きな利益

 安定した家庭は個人レベルのみならず、マクロレベルでも大きな経済的利益をもたらすことが、米国で先月発表された研究結果で明らかになった。研究を行った専門家は、経済成長の観点からも「家庭再建」を重要政策に位置付けるべきだと提言している。(ワシントン・早川俊行)

 研究は大手シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ政策研究所(AEI)が家庭学研究所(IFS)と共同で行ったプロジェクトで、ブラッドフォード・ウィルコックス・バージニア大学准教授らが報告書をまとめた。

 報告書によると、全米50州のうち、子供がいる世帯で親が結婚している割合が最も高い10州は、その割合が最も低い10州に比べ、①1人当たりの国内総生産(GDP)が1451㌦(約18万円)高い②低所得世帯出身者のエコノミック・モビリティー(所得階層の上方移動の可能性)が10・5%高い③子供の貧困率が13・2%(2・6ポイント)低い④1世帯当たりの平均所得が3654㌦高い――ことが分かった。

 報告書は「個人レベルでは強固な家庭と経済的利益が関連していることが明らかにもかかわらず、エコノミストたちは強固な家庭が経済成長をもたらすかどうかについて研究を怠ってきた。これは深刻な見過ごしだ」と指摘。マクロレベルでも、安定した家庭は経済に好影響をもたらすことが確認された、と結論付けている。

 報告書は安定した家庭が経済に寄与する要因として、結婚した男性は家族への責任感が生まれ、就労率を引き上げることを挙げている。25~59歳男性の就労率は、子供がいない独身者が80・9%であるのに対し、子供がいる既婚者は94%と大幅に高い。

 女性が結婚すると家事・育児のために就労率は低下するが、結婚は男性の勤労意欲を高めることで、損失以上の利益をもたらすという。既婚男性は独身男性に比べ、年間労働時間が約400時間、年収が約1万6000㌦も多い。

 また、親が結婚している世帯の割合が最も低い10州は、10万人当たりの凶悪犯罪発生数が563件と、その割合が最も高い10州の343件に比べ、大幅に多いことも分かった。シングルマザーの家庭で育った若者は犯罪を起こす割合が高いことが影響していると考えられ、報告書は高い犯罪率は経済活動に悪影響を及ぼすとしている。

 米国では「結婚離れ」が進み、現在、新たに生まれる子供の4割が婚外子だ。経済的観点からも家庭再建は急務と言え、報告書は結婚離れを助長する福祉制度を改めるべきだと主張している。結婚して世帯所得が増えると、それまで受け取っていた福祉手当が削減、または打ち切られてしまうため、低所得層を中心に結婚しない人が多くいるからだ。

 また、制度改革とともに、教育界、メディア、ポップカルチャー、経済界、市民社会を巻き込み、若者に結婚・家庭の重要性を訴える全国キャンペーンを展開すべきだと提言している。